瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

K病院の幽霊(2)

 昨日の続き。
 19歳の浪人生キノくんの怪我は『幽霊物件案内』には「バイクの事故で右足を骨折した」とあったが、『東京近郊怪奇スポット』では説明されていない。小池氏と会った頃の怪我の状態は、『幽霊物件案内』では具体的に説明されておらず、せいぜい、ヤケベさんの最後の台詞に、163頁15〜18行め、

 「デンマさんのドロップをよく食ってるのは、キノくんなんだよ。その次が俺なんだよ。で、どうも/ケガが治らないのも、キノくんなんだよ。で、その次が俺なんだよ。ウベさんも、顔の腫れがひいて/から、あのドロップもらって食いはじめたんだけど、やっぱり思わしくないね。ヤスイさんは、絶対/食ってない。それで、順調に治ったのは事実なんだな。一番年寄りなのにねェ」

と、回復が思わしくないことが語られるだけである。しかし、ドロップを食べ始める前の入院期間もあった訳で、前回取り上げたヤケベさんと同じく、そもそも病院の対応が宜しくなかったとしか思えないのである。――私は骨折したことが(多分)なく、周囲にもそういう怪我をした人がいないので余り知識がないのだが、しかし片脚の骨折で、年単位で入院するものだろうか。
 それはともかく、浪人生の状態は『東京近郊怪奇スポット』には、30頁9〜10行め、

 私と同い年の、気のいい浪人生が隣のベッドにいて、いつも熱心に勉強していた。彼もやはり、下/半身にギプスを巻いていた。‥‥

と説明されている。「気のいい浪人生」だから『幽霊物件案内』では仮名を「キノくん」にしているのであろうか。それはともかく、『東京近郊怪奇スポット』ではどんな怪我なんだか説明されていないのだが、『幽霊物件案内』の通り右脚の骨折とするなら、両足大腿骨の複雑骨折と云う牢名主ことヤケベさんと同じような、下半身にギプスと云うのは変である。
 しかし『東京近郊怪奇スポット』で問題になっているのはドロップではなくギプスで、すなわち題の前半にあるような「ギプスを巻きたがる病院‥‥」なのである。
 結末も、〈怨念の系譜〉の最後の段落、31頁16〜18行め、

 1週間後に、私は無理やりギプスを巻かれそうになった。転院の手配が早/かったこともあって、強引に病院を出ることに成功した。牢名主も浪人生も、/すでに幽霊ではなかったのかという思いが、私には少しだがある。

となっていて、ギプスを巻かれて長期入院の仲間に入れられそうになったところで虎口を脱した、と云うことになっている。――しかし、どうにも妙な事態で、本当にこんな病院があるのか、急性腸炎でせいぜい5日入院したことしかない私には俄に納得しがたい。だから体験者である小池氏も「すでに幽霊ではなかったのか」と思っているのだろうけれども。
 そして題の後半「‥‥の代替わりする亡霊のうわさ」であるが、『幽霊物件案内』では5月4日付「事故車の怪(10)」に引いたように、単に浪人生の幽霊が出た、と云うだけのことになっているのが、『東京近郊怪奇スポット』では「代替わり」すなわち先代(?)の幽霊が登場していたことになっているのである。(以下続稿)