瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

K病院の幽霊(3)

 昨日の続き。
 『幽霊物件案内』のオチは次のようになっている。前回引いた163頁15〜18行めのヤケベさんの台詞に続いて、164頁(初めに1行分の空白があって、ここで159頁14行め〜160頁6行めの、運送屋との会話と云う枠組みに戻る訳だが)1〜5行め、

 その後、私はほかの病院に移ったので、彼らがどうなったのかは知らなかった。が、入院していた/浪人生が死んで幽霊になったという話は耳にしていた。その浪人生というのが、キノくんのことかど/うかはわからなかったが、一番やつれていたのが彼だから、たぶんそうだろうと思う。
 「……というわけで、ドロップがよくなかったんですな。食いすぎなんですよ」
 いずれにしても変な病院だ、と私の話を聞き終えた運送屋さんは言っていた。

とあって、小池氏の転院について、前回引いた『東京近郊怪奇スポット』のような「ギプスを巻きたがる病院」からギリギリのタイミングで逃れ得た、と云った切迫感がない。
 浪人生の幽霊については『東京近郊怪奇スポット』にも、30頁15〜16行め、

 最近、この病院について聞いたうわさでは、なんでも浪人生の幽霊が夜な夜な病室を徘徊するそう/だ。あの気のいい彼のことなのかどうかは知らない。

とあって、どのくらいの規模の病院なのか知らないが、いくらなんでも人がいたのは小池氏の入院した大部屋だけに限らないし、キノくんがあのまま死んだとして、別に浪人生の入院がなかったとは言い切れないから、こんな噂だけでキノくんと判断してしまうのは如何なものかと思う。しかし『幽霊物件案内』では、『東京近郊怪奇スポット』では隠していた(?)「デンマさんのドロップ」について明かした余勢を駆ってか、160頁4〜5行めでは断定しているのである。問題はギプスではなくドロップで、病院がおかしいのは、なかなか怪我が完治しないことよりも、デンマさんのような病人でもない人物を入院させ続けていることの方にありそうな按配なのである。
 『東京近郊怪奇スポット』では、31頁〈怨念の系譜〉13〜15行め、1階ロビーで牢名主・ヤケベさんと浪人生・キノくんと語らっていた折、

 ほかの病院に移ってはどうなのか、と私がいうと、なぜか浪人生が「くっ/くっ」と笑い、牢名主はやさしく微笑んだ。「移りたくないんだよ」と彼はい/った。「小池君も、そのうちわかるよ」

と、何か(小池氏の「十日ほど」の入院期間では明かされなかった)移りたくなくなる事情があったことになっている。
 しかし、この病院がおかしいのは、『東京近郊怪奇スポット』では怪我の回復の遅さだけではないのである。すなわち『幽霊物件案内』には題の前半「ギプス」同様に引き継がれていない題の後半「代替わりする亡霊のうわさ」もあるのである。いや、噂どころか、30頁10〜13行め、浪人生について、

‥‥。毎夜彼は、激しい金縛りに襲われていた。
「大丈夫か?」と声をかけると、「え・え・な・ん・と・か」と苦しい声で答える。黒い顔の年寄りが/のしかかってくるのだという。私には何も見えなかったが、「去年までそこのベッドにいた羽鳥さんだ/よ」と牢名主は説明していた。十日ほど入院する間にいろいろなことがあったが、とにかく‥‥

と、小池氏は見えていない(?)ものの、牢名主ヤケベさんにも見えている幽霊に、浪人生キノくんが襲われているところ(?)を見ているのである。――5月5日付(1)に、キノくんが「何年も入院している」可能性を探って、長くても1年8ヶ月くらいにしかならない、と結論したのだが、この「去年まで」と云う記述を見落としていた。すなわち、入院は高校卒業後のことと見て良いであろう*1
 さて、他に幽霊は登場しないから、題の後半「代替わりする亡霊のうわさ」とは、羽鳥さんからキノくんへの「代替わり」ということになりそうだが、小池氏入院時点での「去年」からの羽鳥さんと、その時点が「およそ二十年前」になって、その大部分の時期になろうかと思われる浪人生では――すなわち、浪人生の幽霊が小池氏の見当通りキノくんとすると、彼が浪人生と呼ばれてもおかしくない時期、長くてもその後2年くらいのうちに死んだとすれば――代替わりさせられてからが、随分長かったことになるのである。(以下続稿)

*1:「去年」の早い時期――3学期の、卒業には全く影響の出ない時期である可能性も、皆無ではないのだけれども。