・鶴川学「恐怖の"焼身自殺実況ビデオテープ"」(3)
昨日の続き。
鶴川氏は卒業生と在校生の証言を示してから、152頁1〜4行め、
‥‥。話のディティールは学生によって若干異なるものの、もともと「七不/思議」では収まらないほどの"怪談"が多く語られるT大で、関係者の多くが「学内最大の都市伝説」/と口を揃える。さらに他の美大出身者の多くが、この自殺ビデオの噂を「美大都市伝説」として在/学中に聞き及んでいるようだ。‥‥
と、伝承状況を纏めています。
そして152頁9行め、2項めの題は「T大学界隈に伝わる"怪奇伝説"」と題して、多摩美術大学関連のネット掲示板などに取り上げられている、鑓水地区に関する怪奇伝説を紹介するのですが、後半は、153頁3行め「‥‥。取材を進めてゆく最中、気になる話を耳にした。‥‥」として、この項の題とは無関係の話に話題を転換します。それが「東京近郊のG大」に伝わる話なのですが、その詳細に及ぶのは次回に回すことにして、その話(153頁6〜8行め)の中に、7〜8行め「10年/以上前」とあったのを捉えて、鶴川氏は他大学の例も含めた時期の問題に、話を進めます。153頁8〜10行め、
‥‥。自殺ビデオの噂の発生時期は、若干の差異はあれど、「自分の入学/する10年くらい前」「80年代」と語られる場合が多い。
「都市伝説が本当だとすれば80年代中ごろから90年くらいの間ではないか」(T大職員)
鶴川氏は学生や卒業生だけでなく、職員にまで取材していることが分かるのですが、平成になってから就職した若手のようです。そして多摩美術大学の関係者からの証言が紹介されるのは、これが最後になります。
10月10日付「閉じ込められた女子学生(07)」から10月13日付「閉じ込められた女子学生(10)」まで検討して見た、2ch(5ch)のスレッド「大学にまつわる怖い話」でも、同じ頃に発生したらしいとの見当が付けられました。だから鶴川氏がT大職員の証言を引用する形で示した結論自体には異論はないのですが、やはりどうも、私のような人間には、結論だけでは落ち着かないのです。
その点ではむしろ、匿名掲示板ですが2ch(5ch)のスレッド「大学にまつわる怖い話」の方が、情報を書き込んだ人間が入学年や卒業年を、自らの証言の信憑性を担保するために書き込み、内容についても真面目に正直に書いているらしいことが好もしく思えるのです。もちろん、中には全くの虚偽を書き込む輩もいるでしょうが、それも今後、支持されれば「あったこと」として定着する可能性もある訳で、従来から「あったこと」として語られていた、到底事実とは認められない話とどれ程差があるのか、――結局、考察にはそれらも含めて行かざるを得なくなると思うのです。
それはともかく、学校の怪談の場合、在学時期が記録されているかいないかで、資料の価値が大きく違って来る、と私は思います。時期の特定が容易で、そして小学校は6年、中学と高校が3年ずつ、そして大学は4年で入れ替わる訳で、ある時期の生徒が知っている話を、彼等が卒業した後に入学した世代は知らない、とか、その逆もあるでしょうが、それも比較的跡付けやすいと思うのです。もちろん、部活動などの交遊圏などの違いで、同時期に在学していても話の内容が異なることも普通にありますが、――松谷みよ子『現代民話考[第二期]II 学校〈笑いと怪談/子供たちの銃後・学童疎開・学徒動員〉』は在学時期に注意を払っている点が大いに評価すべきで、中には2013年10月24日付「赤いマント(003)」に示した北川幸比古の在校時期のような錯誤もあり、生年月日など、もう少し詳しい情報があった方がより良かったのですが、それでも最低限のポイントは押さえていたと言えましょう。
学校は学生・生徒が入れ替わり、そもそも話と云うものが変化し易いものである以上、学校の怪談はその違いが分かるよう記録するべきです。同じ話だからと云って、時期の違う証言内容を綜合して捻り出した結論には、無理が生じることにもなるでしょう。その意味で、鶴川氏の記事は、雑誌から与えられた分量に合わせて結論だけを書いた点が、仕方がないとは思うのですけれども、私にはどうしても不満なのです。しっかり取材したことは窺われるのですが、やはり個々の証言についてもっと背景が分かるデータが欲しい。そしてその意味では今回、――2ch(5ch)の書き込みも、もちろんこれも匿名掲示板である点を割り引いて置かないといけないのですが、意外に使えるのではないか、と云う印象を持ったのでした。(以下続稿)