瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

岡本綺堂の文庫本(12)

・岩井紫妻の「恋」と「死」(3)
 昨日からの光文社時代小説文庫『女魔術師』177~192頁「岩井紫妻の死」と、中公文庫『怪獣』117~130頁「岩井紫妻の恋」の比較の続き。
 前回の引用からも分かるように、『怪獣』は歴史的仮名遣いのまま(振り仮名を除く)で、原文の漢字を新字に改めて全て保存しているのに対し、『女魔術師』は現代仮名遣いで、現在、漢字では表記しない「斯」などを平仮名に開いている。他にも送り仮名は内閣告示第二号「送り仮名の付け方」に従い、踊り字も使用していない。
 従って、細かい用字の異同を拾っても文庫編集部に拠る調整の可能性があるので、そのような異同は拾わずに置こうと思ったのだが、大きな異同は殆どない。こうなると細かいところが気になるのである。以下「上」の終わりまでの異同を拾って置こう。
・『女魔術師』179頁15行め「‥‥、その白い美しい顔を陰らせた。‥‥*1」が『怪獣』119頁2行め「‥‥、その白い美しい顔を曇らせた。‥‥」。
・『女魔術師』180頁2行め「鳥彦隠宅」ルビ「とりひこ」。『怪獣』119頁5行め「鳥彦の隠宅」ルビ「とりひこ・いんたく」。
・『女魔術師』180頁4行め「役所」にルビ「やくどこ」、5行め「俳優」にルビ「やくしや」。『怪獣』119頁7行め「役所」にはルビ「やくどころ」、8行め「俳優」にはルビなし。
・『女魔術師』183頁10行め「心配のほかに云い知/れない恐怖も」。これが『怪獣』122頁8行め「心配のほかに云い切れな/い恐怖も」となっているが、変である。或いは底本の日本小説文庫『怪獸』をスキャナで読み取ったときに「知」を「切」に誤認したのではないだろうか。それとも日本小説文庫『怪獸』の誤植か*2
・『女魔術師』184頁1行め「紫若や勘弥を迎いに来た」。『怪獣』122頁15行め「紫若や勘彌を迎へに来た」。
・『女魔術師』184頁6行め「案外に早く迎いが来たので、」。『怪獣』123頁3行め「案外に早く迎へが来たので、」。
 表記の違いや読点の有無など、幾つか拾わなかったものもある。(以下続稿)

*1:ルビ「くも」。

*2:底本の誤植だったとき、訂正の根拠として初出との比較――校訂作業が必要になって来るのである。