・中公文庫『怪獣 岡本綺堂読物集七』 2018年10月25日 初版発行(303頁)定価780円
- 作者: 岡本綺堂
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2018/10/23
- メディア: 文庫
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しかしながら、国立国会図書館には所蔵されていない(従って国立国会図書館デジタルコレクションにも収録されていない)せいか、私は中公文庫版が出るまで『怪獸』と云う本の存在を知らなった。春陽堂版は都内の他の公立図書館にも所蔵がないようだ。神奈川県立近代文学館には所蔵されている。
293~303頁、千葉俊二「解題」の冒頭を抜いて置こう。293頁2~6行め、
『怪獣』は昭和十一年(一九三六)十一月十五日に、「日本小説文庫」の一冊として春陽/堂から刊行された。「綺堂讀物集7」とされ、前作の『異妖新篇』と同様、はじめから文/庫本として編集、刊行されたものである。「綺堂読物集」はこれまで一冊ずつオリジナル/な題名が付されてきたが、この最後の「綺堂読物集」は巻頭に据えられた作品の題名をそ/のまま作品集のタイトルに採用している。‥‥
本書を手にしたのは、これまでの6冊も刊行されるごとに手にして来たからなのだけれども、それ以上に、カバー裏表紙右上の明朝体縦組みの紹介文に、
自分の裸体の写し絵を取り戻してくれと泣く/娘の話「恨の蠑螺」*1、美しい娘に化けた狐に/とりつかれる若い歌舞伎役者の話「岩井紫妻/の恋」など、動物や道具を媒介に、異界と交/わるものを描いた綺堂自選の妖異譚集最終巻。/全十二篇に、附録として単行本未収載の短篇/一篇を添える。 〈解題〉千葉俊二
とあったからで、直ちに2017年4月30日付(4)に抜いた、光文社時代小説文庫『【傑作情話集】女魔術師』に収録される「岩井紫妻の死」の【編集部註】を思い出したのである。
すなわち、2017年5月1日付(5)に見た『岡本綺堂読物選集③ 巷談編』の岡本経一「あとがき」には何の説明もなく、内容からしても編集に当たって綺堂讀物集7『怪獣』を参照していないらしい*2のだけれども、『岡本綺堂読物選集』の本文はこの、恐らく綺堂讀物集7『怪獣』収録に際して改題・改稿された、「岩井紫妻の恋」を使用しているらしいのである*3。
千葉氏の「解題」には最後、302~303頁に初出について触れているが、302頁9行め、6点めに、
岩井紫妻の恋 「新演藝」大正十二年三月号
とあるのみで改題に触れていない。しかしながら5~6行め、3点め「真鬼偽鬼」と15行め~303頁1行め、11点め「眼科病院」は改題に触れているから、これは見落しであろう。
それはともかく光文社時代小説文庫『女魔術師』が初出本文を収録し、その約3年後に刊行された中公文庫『怪獣』が改題・改稿された本文を収録したことで、文庫本によって初出と改稿について、大体の比較が出来るようになっているのである。
なお、千葉氏「解題」の296頁9行め以降、特に297頁9行め~300頁2行めに『捜神記』や『源氏物語』そして中島敦「狐憑」にも触れて「岩井紫妻の恋」について考察している。299頁13~14行め、
とあるが、中島敦の連作は「古譚」である。(以下続稿)