瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

ビートたけし『たけしくん、ハイ!』(35)

銀河テレビ小説たけしくんハイ!」シナリオとの異同(28)
 昨日の続き。
・第9回(3)宮森圭子③
 さて、宮森圭子(岡崎由喜枝)の誕生日会に「およばれ」されたのは数人の女子と、男子はたけし(小磯勝弥)と松本正彦(後根宣将)の2人である。
 たけしは歌留多取りでは全く分かっていないのに出しゃばって、お手付きばかりして女の子たちの顰蹙を買う。
 果ては圭子の母(岸久美子)がおやつの準備が出来たと言いに来たのに松本正彦が素早く反応して「僕お手伝いします」と立ち上がったのに対抗して、正彦よりも早く「一番!」と応接間に戻って来たまでは良かったが、幾ら立派な家とは云っても台所から応接間までを正彦に負けじとケーキを載せたお盆を手にして慌てたものだから、蹴躓いた上に勢い余ってヘッドスライディング、ケーキを2つ3つ、顔で潰してしまうのである。
 『シナリオ』でもほぼ同じ流れだが、細かいところがかなり異なっている。しかし配信期限ぎりぎりに見逃し配信を見ながらメモを取ったので、細かな違いまで押さえることが出来なかった。
 たけしはこの失態で流石に居辛くなったのか、先に宮森家を後にする。118頁下段1~14行め、「」は「宮森家」。

●同・表

  たけしが一人、ポツンと塀にもたれて石をけっ/  ている。
  中から子供達のはしゃぐ声が聞こえる。

●同・座敷

  ゼスチュアゲームをしている子供達。

●同・台所

  久美子が洗い物をしている。
  手伝っている圭子。
久美子「圭子ちゃん、どうして西野君みたいな子を/ 呼んだのよ。」
圭 子「本当は松本君だけ呼ぼうと思ったんだけど、/ 男の子を一人だけ呼ぶとさ、好きなんだとかいろ/ いろ言われるから……。(唇をとがらせる。)」


 TVドラマではまづ「」のシーン、玄関からたけしが出て来ると、中で子供たちの楽しげな声が聞こえてくる。たけしが顔を洗ったりしている間にゲームを始めて、そして、その楽しげな様子にたけしは戻りづらくなって、圭子の母が(恰好だけ)引き留めるのを断って辞去したのであろう。『シナリオ』では歌留多取りと同じく子供たちがいるのは「座敷」となっているが、TVドラマでは洋間の、玄関に近い応接間である。『シナリオ』ではこのゼスチュアゲームに宮森圭子は参加していないが、TVドラマでは圭子も一緒に楽しそうに遊んでいる。すなわち、TVドラマでは「台所」のシーンが省略されているのである。
 TVドラマのクレジットは「圭子の母」とのみだが、『シナリオ』では「圭子の母――久美子」となっていて、演じている岸久美子(1946.2.2生)と同名、但し名前が呼ばれることはない。撮影当時39歳で原作者と同年・同学年である。「ケンちゃんシリーズ」のお母さん役として親しまれていた女優で、私も「ケンちゃんチャコちゃん」を見た記憶はあって、お父さんが牟田悌三(1928.10.3~2009.1.8)だったのは覚えているのだが、お母さんは全然記憶していなかった。
 圭子の母の感想は、まぁ当然である。凡そ昭和30年(1955)にピアノ(アップライト)があるような家での振る舞いではない。
 それに対する圭子の答えが、圭子の淡い想いを窺わせるものとなっていたのだが、省略されてしまった。いや、たけしを誕生日会に招んだと云うだけで十分窺えるとは思うのだけれども。
 1月30日付(33)に引いた(TVドラマでは省略された)会話からして真利子(木の実ナナ)や菊(千石規子)は知らなかったらしいが、たけしは4年生までに宮森圭子と同じクラスになったことがあったはずである。松本正彦とたけしは5年2組(?)で同級であるが、松本正彦と宮森圭子もやはり同級だったことがあって、そのときにはたけしとは別のクラスだったろう。低学年のときの同級生でここまで意識することもあるまいから、3年生のときに松本正彦と、4年生のときにたけしと、宮森圭子は同級だったのだろう。
 既に第2回で、朝の通学路で宮森圭子から、特にたけしに挨拶していること、そして墨で汚れた顔を洗っているたけしに体育の授業から校舎に戻る途中でハンカチを差し出すシーンからしても、宮森圭子もたけしを意識していて、たけしも宮森圭子を意識しているから、言わば両思いなのだけれども、まだ小学5年生ではたけしもどのようにすれば彼女の歓心を買うことが出来るのか、女の子たちの受けが良くなるのか、器用に振る舞うことが出来ないで独りで妙にはしゃぐばかりで、却って嫌われるようなことになってしまうのである。
 しかし、どのようにたけしと松本正彦に声を掛けたのかが、謎である。松本正彦はたけしも招ばれていることを知っていた。たけしも知っていたらしい。しかし5年2組(?)に行って声を掛けたのではなかろう。第2回で、たけしが宮森圭子に挨拶されたりハンカチを差し出されたりしたときどころでなく、久(伊藤環)たちに囃し立てられてとてもでないが承諾出来そうな雰囲気にならなかったろう。そうすると、通学路や、或いは休み時間のトイレの行き帰りなど(全然ロマンチックじゃないな)たけしが一人でいるところを見計らって、「松本君も招んでいるから」と云うことにして声を掛けたのだろう。そして松本正彦にも同様に「西野君も招んでいるから」と云って声を掛けたのではあるまいか。
 宮森圭子は以後、登場しない。同じクラスでないから、と云うこともあるが「続たけしくんハイ!」では全く問題にされなくなってしまう。――今回、このことについて少々憶説を述べるつもりだったが長くなった。改めて検討の機会を作ることとしよう。(以下続稿)