瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

津留宏『一少女の成長』(07)

石原静子の著訳書(1)
 石原氏には故石原静子先生を偲ぶ会実行委員会 編『「小さな実験大学」の発掘者 追悼 石原静子先生』(2011年7月・町田 : 和光学園・159頁)なる追悼文集があって和光大学附属梅根記念図書・情報館に所蔵されている。「一般注記」項に「略年譜あり」とあって、これが本書と重なっておればもう間違いないのだが(既に間違いないと思っているのだけれども)しかし余所には所蔵がない。3月2日付(06)に触れた『津留宏先生のおもかげ』はその後見ることが出来たが、こちらはいよいよ和光大学に行かないといけないようだ。
 そこで、差当り公立図書館で借りられる石原氏の著訳書を見て行こうと思ったのだが、都下の公立図書館には殆ど所蔵されていないのである。
 それでも何冊か見ることが出来た。もちろん私は石原氏の専門分野に昏いので、内容の史的評価等は出来ないから、専ら石原氏の経歴の資料として参照しているだけである。
・メイヨー/エドワーズ 著 梅根悟/石原静子 訳『デューイ実験学校 シリーズ・世界の教育改革4』1978年9 月初版刊・明治図書出版・248頁・B6判上製本
 梅根悟(1903.9.12~1980.3.13)は昭和41年(1966)に和光大学を創設して初代学長になった人物で、石原氏が東京教育大学で学んだ頃には教育学部の教授を務めていた。石原氏も和光大学創設時にその教員になっているので、師弟関係と云うことになるのであろうか。本書を石原氏が訳したのも梅根氏の慫慂からであった。243~248頁、石原静子「訳者あとがき」は、248頁19行め「一九七八年三月」付、まづ冒頭の段落(243頁3~8行め)を抜いて置こう。

 私の専攻は教育学ではなく、心理學それも実験心理学である。だから専門的な解説はもう一/人の訳者のまえがきに任せるとして、この原文で五百ページ近い大冊をとにかく訳し終えたい/ま、しろうとの感想といったものを書きたくなった。読者の中にはもちろん教育学者もあるだ/ろうが、大部分はそうでないしろうとなのだろうから、その意味で、たまたま訳にたずさわっ/た者の卒直な感想も、仲間と読後感を気楽に語り合うような具合で、むだではないのではない/かと考えた。

として、3点に分けて感想を述べて、246頁18行め~247頁9行め、

 私がこのいわば畑違いの本を訳すに至ったわけは、私事にわたることをお許し頂けば、約六/年前にさかのぼる。思いがけない大病で休職を余儀なくされた私は、退院後自宅療養をしてい/【246】た。退屈しのぎに訳してみないか、と梅根学長に渡されたのが、この原書だったのである。そ/の数年前に開学した和光大学は、教育学者である梅根学長を中心に、あるべき大学教育の理念/を実地に試みて検証しようという、「実験大学」であった。創立当初から偶然ながらその一員/に加わった私は、心理學の実験室でやる実験とは違う、現実の人間の営みの中で歴史と未来に/いどむ生きた実験のありうることに目をひらかれ、新しい興味をもやしていた。その頃仲間の/間ではやったことばでいえば、「教育づいて」いたのである。病気はこの意気ごみにとって個/人的な挫折だったが、いま和光大学自体も、主に経済的理由から、当初の理念の大幅な後退を/余儀なくされ、その意味で挫折に直面している。教育実験は、国籍と時代を問わず、また対象/の年少・年長を問わず、常に至難の仕事であるらしい。‥‥

と翻訳の切っ掛けを述べる。247頁14~15行め「‥‥、復職後長い間机の底で眠っていたこの訳稿を掘り起こして、出版の運びにして下さ/った明治図書、‥‥」とあるように、石原氏は休職期間のうちに全文を翻訳していたのだが、本書は抄訳である。その事情は1行分空けて247頁16行めから説明されている。

 原著は大部であるだけでなく、内容に重複が多く抽象的で退屈な議論の部分が少なくない。/また、「世界の教育改革」シリーズの一冊とする予定のために、訳稿の長さに制約があった。/そこで、かなり思いきって重複の部分をけずり、議論の部分は抄訳して読みやすくした。中で/【247】も大きくけずったのは、‥‥

と、以下どのように手を入れたかを説明している。なお「初の完訳版」が2017年に刊行されているが、石原氏の訳稿はどうなったのだろうか。
 梅根氏の役割について最後の段落(248頁16~18行め)に、

 全文にわたり石原が訳したが、前記のような取捨選択その他の方針については二人で相談し/て決め、梅根は全訳文に目を通して必要な修正を加えた。その意味でもこれは、私たちの具体/的な協力の所産といっていい。

と説明されている。
 奥付の上部「梅根悟(うめね さとる)」に続く「石原静子(いしはら しずこ)」の紹介は全文を抜いて置こう。

東京教育大学大学院博士課程(実験心理学専攻)卒業
現在 和光大学教授
主著 「人間とはなにか―動物心理学の立場から」(明/   治図書)「比較行動学入門―男と女の世界」(創/   元社)「愛の三重奏―親と子の比較行動学―」/   (第三文明社
訳書 アイゼンク「心理学の効用と限界」ブロードハ/   ースト「動物心理学」(ともに誠信書房・共訳)
現住所 東京都杉並区成田西3―X―X

・C.B.ストーン/C.A.ダヒア 著・井上孝代 監訳・伊藤武彦/石原静子 訳『スクールカウンセリングの新しいパラダイム―MEASURE 法による全校参加型支援―2007年9月30日 初版第1刷発行・定価2800円・風間書房・xvi+178頁・B5判並製本
 本書の成り立ちは171~176頁、井上孝代「監訳者あとがき」に述べてあるが、石原氏の立場と役割はよく分からない。井上氏の主宰するマクロ・カウンセリング研究会のメンバーであるらしく、井上氏が監訳者で伊藤氏と石原氏が訳者に名を連ねた訳書は既に2006年にブレーン出版から『コミュニティ・カウンセリング』が刊行されているから、前々から顔を合わせて共同作業をしていたもののようである。
 奥付の上「監訳者紹介」に続いて「訳者紹介」、伊藤氏に続いて「石原静子(いしはら・しずこ)」として以下の紹介文、

 東京生まれ。奈良女子高等師範学校国文科、東京文理科大学心理学科を経て東京教育大/学大学院教育学研究科実験心理学専攻。文学博士(東京教育大学)。1966年より2000年ま/で和光大学教授。和光大学名誉教授。2006年より学校法人和光学園理事長。日本心理学/会会員、大学教育学会会員。最近の著書として『和光燦燦:「小さな実験大学」づくり』(八/月書館)などがある。訳書として『コミュニティ・カウンセリング:福祉・教育・医療/のための新しいパラダイム』(ブレーン出版)など。


 ここに著書として挙がる『和光燦燦』の著者紹介ページが Wikipedia石原静子」の出典になっている。この『和光燦燦』は和光大学の所在地である町田市立図書館を始め都下の公立図書館には所蔵がなく未見。但しその内容は HMV&BOOKS online の「石原静子 プロフィール」により判明する。

1929年7月東京生まれ。奈良女子高等師範学校国文科、東京文理科大学心理学科を経て、東京教育大学大学院教育学研究科実験心理学専攻、修士・博士課程修了。1961年10月文学博士(東京教育大学)。1966年4月和光大学人文学部助教授就任。1968年4月同学部教授、人文学部長、一般教育委員長などを歴任。2000年3月定年退職。2006年1月学校法人和光学園理事長就任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
『和光燦燦 「小さな実験大学」づくり』より


 今後も機会を捉えて石原氏の著訳書を確認して行くこととしたい。記載すべきことが少なければここに追記、多ければ別に記事にしよう。(以下続稿)