高木氏の生前にこのような本が出ていたのではなく、山田野理夫が『日本伝説集』復刻に続いて編集した「エッセイ」集である。版元も同じく宝文館出版で、昭和48年(1973)版と平成2年(1990)版があるところも同じである。
まずは昭和48年版から見ておこう。大きさは『日本伝説集』と同じ菊判、上製本である。ネットオークションの画像によれば函もある(現物未見故記述略)。
カバーは折返しも含めて全面が緑色で、絵金風の髪の毛を振り乱し眉を蹙め口を少し開けて目は天を睨んむという、若い女の生首(?)が濃い緑で入り、振り乱された髪の毛は背表紙から裏表紙までを席巻しているという、凄まじさ。表紙の右よりに白で細筆にて「高木敏雄著 編集山田野理夫/人身御供論」とあり、背表紙に同筆にて「人身御供論 〈高木敏雄著/編集 山田野理夫〉」最下部に横書き明朝体にて「宝文館/出 版」、裏表紙は最下部右寄りに横書き「価1,800円 [0-0-0-0・001050・7715]」([ ]は文字囲いの代用)。本体は緑色で背表紙にのみ、カバー背表紙と同じ文字が黒で入る。見返しは赤(『日本伝説集』の見返しは初刷・第二刷ともに黒)。
扉は黄土色の地に黒で、右下に明朝体で「宝文館出版」、カバーと同筆*1で中央に「人身御供論」左に「高木敏雄著 編集山田野理夫」とある。次に「人身御供論 目次」とあって、次の見開きから頁付(2頁)があって目次が5頁まで、6頁(頁付なし)には左下に小さく「装 画 井上明道/題 字 野村無象」とある。
井上氏についてはネット検索では何の情報も出ないようである。
題字は『日本伝説集』と同筆であるが、『日本伝説集』には野村氏の名前はなかった。Wikipedia「木村卜堂」の項に山田氏と野村氏の関係を窺わせる記述がある(年譜1976年)。
その次が「第一部 人身御供論」の中扉(7頁。頁付なし以下同じ)で、9頁から「人身御供論」の本文が始まっている。 「第二部 人狼伝説の痕跡」の中扉は71頁、「第三部 日本童話考」の中扉は161頁、高木氏の論考は246頁までで、1枚遊紙があって、後付として(頁付を改めて)山田野理夫「高木敏雄と人身御供論」という解説が21頁ある。
奥付には「昭和四十八年九月十二日 第一刷/千二百円/著者 高木敏雄/編者 山田野理夫/……」とあり、奥付の裏は「日本伝説集」の広告である。「高木敏雄著/山田野理夫編集」「日本伝説集/――日本伝説資料集成―― 全一巻」「A5判 三〇〇頁/定価 一二〇〇円」そして紹介文には「まぼろしの名著といわれる本書は明治の末年大蒐集、大正二年に……」以下1月27日付に紹介した『日本伝説集』帯の紹介文とほぼ同文である。最後に「〈全国学校図書館協議会/日本図書館協会〉 選定図書」とある。
本書の成り立ちについて、確認しておこう。
宝文館版『日本伝説集』の山田氏解説「資料 高木敏雄他」(279〜296頁)の「郷土研究について」(286〜291頁)に、山田氏は高木氏が雑誌「郷土研究」に発表した論考を列挙している(290〜291頁)*2。原文では論文名ごとに一々改行しているが、ここでは「/」で改行を示して詰めて示す。
人身御供論1/同 2/人身御供論3/魔除の酒/人身御供論4/同 5/早太郎童話論考/人狼伝説の痕跡/日本農業神話上/同 下*3/牛の神話伝説補遺/三輪式神婚話に就いて/日本童話考/日本の天然伝説/英雄伝説桃太郎新論1/西行法師閉口歌/英雄伝説桃太郎新論2/住居研究の三方面/素戔鳴*4尊神話に現はれたる高天原要素と出雲要素「史学雑誌」
以上は一年二ヶ月の間の業績だが、その後「郷土研究」には筆を絶ってしまっている。この間の事情を明らかにしなければならない。
これら論文集も目下出版の進行中である。その折に高木敏雄にもう一度触れる考えである。
続けてこの節の最後まで引用してみた。この、最後の段落にある「論文集」がこの『人身御供論』なのであるが、収録される論考は同じではない。すなわち、第一部「人身御供論」には「人身御供論」(序章・その一・その二・その三・終章)と「早太郎童話論考」が、第二部「人狼伝説の痕跡」には「魔除の酒」「人狼伝説の痕跡」「牛の神話伝説」(序・一 天然伝説・二 神話伝説・三 宗教的縁起物語・結論・補遺)「日本古代の山岳説話」「西行法師閉口歌」「住居研究の三方面」が、第三部「日本童話考」には「日本童話考」「羽衣伝説の研究」「浦島伝説の研究」「英雄伝説桃太郎新論」が収録されているが、これを『日本伝説集』での列挙と対照すると「日本農業神話」「三輪式神婚話に就いて」「日本の天然伝説」そして「史学雑誌」掲載の「素戔嗚尊神話に現はれたる高天原要素と出雲要素」は収録されていない。反対に、ないのに入っているものもあって、「牛の神話伝説」の補遺以外の部分と、「日本古代の山岳説話」「羽衣伝説の研究」「浦島伝説の研究」である。(以下続稿)