瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

高木敏雄『童話の研究』(2)

 もう一人は関敬吾(1899〜1990)である。
 講談社学術文庫158(昭和52年6月10日第1刷発行・昭和63年7月8日第3刷発行・定価540円)。第1刷と第3刷を見た。
 カバー表紙は緑地に大きく朱色(輪郭は淡灰色)の鬼の面の版画、右下にトキのマーク、左上に黄色と橙色で「童話の研究 高木敏雄」、裏表紙は白地で中央に縦書き8行の説明文、第1刷では横書きで左下隅に「0139-581585-2253 (0)」右下隅に「320円」とあり、第3刷には横書きで下部に「定価540円/ISBN4-06-158158-9 C0139 \540E (1)」、背表紙は青地(ヤケ?)に白抜きで上部に「童話の研究」下部に「高木敏雄 (トキのマーク) 講談社学術文庫 158」一番下に黒で「320」とある。
 カバー表紙折返し、第1刷には右下に縦書きで「カバーデザイン 及部克人」とある他は余白であるが、第3刷では「学術文庫既刊より/記紀の世界」として8書目挙がり、「カバーデザイン 及部克人」は下部に横書きになっている。裏表紙折返しも縦書きで、第1刷は右下に水色(ヤケ?)で「●特製ブックカバー贈呈」と「●宛先」の2項、左下に黒でトキのマークについての説明があるのみ上半分は余白になっているが、第3刷では黒で「●読者の皆様へ」という文が入る。
 ここでは裏表紙の説明の、最初と最後を引いておこう。

幻の名著の復刊。本書は、わが国の神話学の基礎を築きつつも、若くして逝った天才の珠玉の名品である。
(略)
本書は、わが国の口承文学界の第一人者ともいうべき関敬吾氏の校閲による決定版である。


 扉についで、3〜4頁に「昭和五十二年四月」付の関敬吾「この本に寄せて」がある。

 本書は大正五(一九一六)年に上梓されたものである。以後まさに六十余年、まったく専門家の目にもふれることのなかった「幻の名著」である。


 右の段落で始まっているが、この「まったく専門家の目にもふれることのなかった」とは、山田氏の「文学史家の怠慢で埋もれたままであった」との記述とも重なるものである。確かにこの少し前に出た、大林太良編『増訂日本神話伝説の研究1(東洋文庫241)』(1973年10月16日初版第1刷発行・1987年1月30日初版第6刷発行)の大林氏の「解説」でも、「これら高木の著書のうち、未見の『童話の研究』を別とすれば」(391頁)とスルーされていた。
 次の段落では、「日本の神話研究」を「汎世界的に分布する説話を対象」とする「比較歴史的方法を適用」して推進していた高木氏が「そうした研究経験に立って書」いた「わが国最初の童話研究概説である」と評価する。その意味で「たんに研究史的」な面からでも「高く評価されねばならないはずの本書」は、なぜか「半世紀以上の長期間、埋没したままかえりみられることのなかった」のだが、関氏はその「理由」について「今後の解明にまつほかない」としながら、「ただ、今いえることは」として、「当時の皇国史観と、高木の世界史的研究方法の結論との間に、かれを沈黙させる、きびしい現実があったのではないか、ということである」とする。
 この、「かれを沈黙させる」というのが分かりにくい。山田氏紹介の履歴書によれば、高木氏は本書が出た9ヶ月後の大正5年(1916)10月27日に東京高等師範学校教授を依願退官している。そして大正11年(1922)また教職に復して、12月18日に急逝する訳なので、その「理由」は「かれ」本人にもあったろうが、むしろその後の長い間、こうした状況のままにしてきた周囲に求めるべきであろう。
 続いて「柳田国男がとったいわゆる一国民俗学的方法」と高木氏の「比較・文献学的方法」とのうち、「近年の日本の傾向」は高木氏の研究方法におもむきつつある、その意味からも「名著『童話の研究』が、新しく世にまみえる意義がいかに大きいか」と揚言する。
 そして、最後の段落に、この復刊についての事情が述べられる。

 わたしがこの『童話の研究』(婦人文庫刊行会刊)を発見したのは、戦後まもないころ、ある古本屋のくずの中からである。この偶然につづいて、昨年、講談社学術文庫から出される、柳田の『口承文芸史考』の解説を依頼され、たまたま、話が『童話の研究』におよんだ。そうしていま、柳田の名著とともに、この記念すべき書が学術文庫の一冊として公刊されたことは、わが国の口承文芸の研究にとって、きわめて大きい意義を持つといえる。


 その柳田國男口承文芸史考(講談社学術文庫70)』(昭和51年10月10日第1刷発行・昭和61年4月25日第5刷発行・定価580円・講談社・233頁)の220〜231頁、関敬吾「解説」の末尾には(五一・七・一五)とある。まさに山田氏が『童話の研究』再刊を直接遺族に伝えようとしていた頃なのであった。
 5〜6頁(頁付なし)が「目次」で、7頁が中扉、8頁は「凡例」で、底本を示し、その「本文」をどう「改めた」かを10項にわたって述べている。この改変箇所については、複製本について述べる際に細かく検討したい。
 9〜211頁が本文、212〜230頁が関敬吾「解説」で「一、民間童話研究の発端」「二、童話と昔話」「三、起源と伝播」「四、昔話の構造と内容」「五、童話と昔話の交流」。
 奥付、その裏が「「講談社学術文庫」の刊行に当たって」で、最後に第1刷・第3刷ともに目録が8頁(頁付なし)ある*1

*1:内容はもちろん同じではない