瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

森鴎外『舞姫』の文庫本(3)

 『舞姫』について書き始めたら、今朝、モデルの特定についてまた報道各社が報じている。しかし、こういうのが出て来ると研究者は何をしておる(おった)のか、という気分になってくる。まだまだ素人が物を言う余地があるということか。これでモデル問題が収束して、これまでに多々提出されてきた妄説の数々について、どこでそんな勘違いが発生したのか、批判的な整理・検証が行われることになれば、と思うのだが、……異説を1つ積み重ねるだけになるのは、もういい加減にしてもらいたい。

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 さて、改版八版について記述する。奥付には「角川文庫/舞姫うたかたの記/昭和二十九年六月三十日 初版発行/昭和四十二年七月三十日 三十版発行/昭和四十七年五月三十日改版八版発行/……」とある。¥120・角川書店・158頁。頁数は現行版(3月8日付(2)では「平成の諸版」などと呼んでいたが、改めます)と同じだが、同じ版ではない。
 カバー表紙、淡い灰色地に横書きで、上部に濃い灰色で「舞姫うたかたの記」その下に作者名、広げた扇が3つ、左上、橙色(左)から桃色(右)のグラデーション、右、黄緑色(左)から青緑色(右)のグラデーション、左下、灰色(単色)、が並ぶ。下部にゴシック体で「角川文庫」。折返し、右下に縦書きで「カバー 内藤健二」とあるのみで他は余白。裏表紙折返しは真っ白で何もなし。裏表紙も真っ白で下部に横書きで「[¥120]  0193-100301-0946(1)」とあるのみ。背表紙「舞姫うたかたの記  森 鴎外  角川文庫 緑 三 -1 - 120」
 本体の表紙は背表紙のみ覗き込めた。上部に標題と作者名、そして最下部に「704」が横転して入っている。表紙、横に二重線がいくつか入り、紫陽花があしらわれる。
 扉(1頁、頁付なし)は双郭の枠内に横書きで「舞姫うたかたの記他二篇/森 鴎外/(鳳凰のマーク)/角川文庫/704」とあり、2頁(頁付なし)には左下に「本書は現代表記法により、原文を新字・新かなづかいに/したほか、漢字の一部をひらかなに改めた。(編集部)」とある。従って文藝春秋の『現代日本文学館』みたいな表記になっている。現行版の同じ頁は白紙で、別にこのような編集部の注記は見当たらない。
 3頁(頁付なし)が「目次」だが、その内容は現行版とほぼ同じで、ただ「解説」と「主要参考文献」の間に「文献抄」があるのが違っている。裏は白紙で、5〜28頁が「うたかたの記」、29〜71頁が「ふた夜」、72〜99頁が「舞姫」、97〜117頁が「文づかい」。118〜122頁の「注釈」の内容は現行版と全く同じである。
 123〜137頁が「解説」で渋川驍「森鴎外――人と文学」が132頁7行目まで、以下が中野重治「作品解説」である。渋川氏の文中に挿入される図版(125頁上・126頁右下・128頁右上・130頁右下)は、現行版でも4頁ずつずれる(129〜134頁)だけで、同じ位置に同じキャプションで入っている。
 現行版では5〜29頁「うたかたの記」、30〜73頁が「ふた夜」、74〜99頁が「舞姫」、100〜120頁が「文づかい」で、「注釈」は121〜125頁、「解説」は126〜141頁で渋川氏は135頁8行目まで。
 ちなみに中野氏の文の最後には「一九五四・一・二五」の日付が入っている。
 138〜143頁「文献抄」は、同時代評(発表当時に出た反応)を抄録したもので、これが現行版にはない。「うたかたの記(鴎外漁史作、柵草紙第十一号)」「舞姫」(明治二十三年二月三日発行 雑誌「国民之友」第六巻第七十二号所掲。署名は「気取半之丞」となっているが、筆者は明らかに石橋忍月である。)「新著百種第十二号文づかい」(明治二十四年二月十四日「国会」第六十六号、同二月十五日「同」第六十七号所載)署名は忍月。)。なぜかこの引用のみ歴史的仮名遣いである。そして143頁の余白に収録4作品の発表年月・誌紙名号数がまとめられている*1。初出情報は各作品の末尾に発表年月が入っているし「解説」や「年譜」で誌名も確認できるが、翻訳の「ふた夜」の初出情報は現行版では全く確認出来なくなっている。(以下続稿)

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 今朝報道されていた本はもう出ているらしい。

鴎外の恋 舞姫エリスの真実

鴎外の恋 舞姫エリスの真実

*1:2013年9月24日追記】ここも「文づかひ」は歴史的仮名遣い。なおカバー表紙折返しの紹介文でも1箇所「文づかひ」となっているが、これについては改めて記事にて触れる予定。