瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

森鴎外『山椒大夫』の文庫本(5)

・角川文庫17400『山椒大夫高瀬舟阿部一族』(1)
 2月18日付(1)に、旧版である角川文庫695について記述した。旧版「カバー 奥村靫正」の書影は2011年3月6日付「森鴎外『舞姫』の文庫本(1)」に貼って置いた。

【改版初版】昭和四十二年二月二十八日初版発行・平成二十年八月十日旧版六十七版発行・平成二十四年六月二十五日改版初版発行・定価476円・301頁
 この手拭い柄カバーに改装するのを機に改版ということになったようである。このカバーのことは、10月8日付「壺井栄『二十四の瞳』の文庫本(4)」の最後に少し触れて置いた。
 以下、必要に応じて角川文庫695【五十三版】と比較しつつメモして置く。
 まずカバーから。なお、以前断ったかどうか忘れたが「鴎外」の「鴎」の字を本字にすると検索に不便なので、これまで通り、仮に略字を使用する。
 朱色地で柄も淡い朱が染みた白。上部にカバー裏表紙折返しから裏表紙・背表紙・背表紙の右上まで、長方形の白紙を載せたようになっていて、その右端、裏表紙折返しの右上には明朝体縦組みで「角川文庫※森 鴎外の本」※のところには丸い葉が3つ付いた梢のマーク、1行分空けて「舞姫うたかたの記山椒大夫高瀬舟阿部一族」の2点。裏表紙の右上、明朝体縦組み8行(1行24字)の紹介文があるが、これは五十三版のカバーの裏表紙中央にあったゴシック体縦組み11行(1行14字)の紹介文とは全く書き換えられている。左上にバーコード2つ、その下に13桁のISBNコード/Cコードに「\476E」/「定価:本体476円(税別)」。
 表紙の右上、白の長方形の左端に当たる部分、右上に著者名、右下に小さく「角川文庫」、その左に大きく標題「山椒大夫・」その左にやや小さく「高瀬舟阿部一族」と、やはり明朝体で入る。
 背表紙は「も 1-2 森鴎外   山椒大夫・〈高瀬舟 /阿部一族〉」とやはり明朝体。背表紙の下部、手拭い柄の上に明朝体で小さく「角川文庫」とあるが柄と紛れて読みにくい。
 裏表紙折返しの下部、1.2×5.5cmの長方形に白くして「装画 てぬぐい さや形(株式会社かまわぬ)/   ©KAMAWANU CO.,LTD.All Right Reserved/装丁 大武尚貴+鈴木久美(角川書店装丁室)」とある。
 表紙折返しの上部、8.0×5.9cm白くして、五十三版の同じ位置にあった四角の顔写真と同じ写真を同じ縮尺のまま丸く切って右上に示しているが、五十三版に写り込んでいた背景を消去しているため、並べて見ると何だか不自然である。下に小さく「写真提供 日本近代文学館」。その左に横組みで「森 鴎外/Ogai Mori 」。下に横組み10行(1行18字)の紹介文、これは五十三版の明朝体縦組み12行(1行17字)の紹介文*1を一部省略したものである。以下異同を挙げて置く。冒頭、五十三版は「本名、森林太郎島根県出身。」で生年がなかったが改版初版は「1862年、島根生まれ。本名、森林太郎。」となっている。続く2行めにかけての部分「明治十/四年、に最年長に届けていたため、満/十九歳で東大医学部を卒業。」は「81/年に東大医学部を卒業、」と簡略化されている。4行め「四年間」は3行め「/4年間」、5行め「かたわら、」は4行め「かたらわで」、9〜10行め「大正十一年、文京区本/郷の自宅で、」は7〜8行め「1922/年、文京区本郷の自宅で」、11行め「知識深く」は9行め「知識が深く」。
 この中で気になるのは、「文京区本郷の自宅」である。文京区は昭和22年(1947)に本郷区小石川区と合併して後の新地名である。かつ、鴎外の住んだ辺りは千駄木であって、本郷ではない。自宅については巻末の「年譜」291頁下段「明治二五年(一八九二)    三〇歳」条の最後に、以下のように見えていた。

一月、千駄木町二十一番地へ移転。千住から父母・祖母が来て同居する。八月、新た/に観潮楼を建てた。以後の生涯をこの家で/送った。


 これは五十三版の249頁下段でもルビ「かんちようろう」がないだけで同文である。その前に住んでいた家については同じ頁の上段、「明治二三年(一八九〇)    二八歳」条の最後に「一〇月、本郷駒込千駄木町五/七番地(千朶山房)へ移る。……」とあって五十三版もルビ「こまごめせんだぎ/せんださんぼう」がないだけで同文だが、当時、東京市本郷区駒込千駄木町はあったがただの千駄木町はなかった。かつ、同じ年譜で「本郷駒込千駄木町」と「千駄木町」とあっては、これが同じ町内だと分かるかどうか。それはともかく、鴎外が住んだ辺りは確かに文京区のうちで旧本郷区の区域だが、没後も含めて「文京区本郷」と呼ばれたことはない。「現在の文京区千駄木の自宅」か、せめて「文京区千駄木の自宅」に改めて欲しい。(以下続稿)

*1:2013年4月21日追記】「横組み」と誤っていたのを「縦組み」と修正した。