瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(11)

 まず、冒頭を比較してみる。【A】は『子供役者の死』所収本文、【B】は『近代異妖篇』所収本文。それぞれの書誌の詳細は後述する。
 【A】は97頁(頁付なし)の中央に縦書きで「木曾の旅人」と題が入り、九八頁から本文。まず2行分取って6字下げで「」とある。振仮名は殆どない。よって一々注記した。
 【B】は一六七頁、前後に1行ずつ空白を取って「木曾の旅人」とあり、ついで8字下げで「(一)」とある。
 では、【B】の冒頭から。現在流布している本文とは異同があるので、仮に『岡本綺堂【怪談コレクション】白髪鬼 新装版(光文社文庫)』(2006年6月20日初版1刷発行・定価533円・光文社・309頁)と対照してみた。

 T君は語る。/

 その頃の輕井澤は寂れ切つてゐましたよ。それは明治廿四年の秋で、あの邊も衰微/の絶頂であつたらしい。なにしろ昔の中仙道の宿場がすつかり寂れてしまつて、土地/にはなんにも産物は無いし、殆どもう立ち行かないことになつて、ほか土地*1へ立退く/者もある。わたしも親父と一緒に横川で汽車を降りて、碓氷峠の舊道をがた馬車にゆ/られながら登つて降りて、荒涼たる輕井澤の宿に着いたときには、實に心細いくらゐ/寂しかつた*2です。それが今日ではどうでせう。まるで世界が變つたやうに開けてし【一六七】まひました。その當時わたし達が泊つた宿屋はなにしろ一泊三十五錢*3といふのだか/ら、大抵想像が付きませう。その宿屋も今では何とかホテルといふ素晴らしい大建物/になつてゐます。一體そんなところへ何しに行つたのかと云ふと、つまり妙義から碓/氷の紅葉を見物しようといふ親父の風流心から出發したのですが、妙義で好い加減に/疲れてしまつたので、碓氷の方はがた馬車に乘りましたが、山路で二三度あぶなく引/つくり返されさうになつたのには驚きましたよ。


 振仮名一覧。「ヽ」は傍点。また、踊り字のうちくの字点は「 く 」「 ぐ 」とした。

 テーくん・かた
 ころ・かるゐざは・さび・き・めいぢ・ねん・あき・へん・すゐび/ぜつちやう・むかし・なかせんだう・しゆくば・ヽヽヽヽさび・とち/さんぶつ・な・ほとん・た・ゆ・とち・たちの/もの・おやぢ・しよ・よこかは・きしや・お・うすひたうげ・きうだう・ヽヽばしや/のぼ・お・くわうりやう・かるゐざは・しゆく・つ・じつ・こゝろぼそ/さび・こんにち・せかい・かは・ひら【一六七】たうじ・たち・とま・やどや・ぱく・せん/たいてい・さう ぐ ・つ・やどや・いま・なん・すば・おほだてもの/たい・なに・い・い・めうぎ・うす/ひ・もみぢ・けんぶつ・おやぢ・ふうりうしん・しゆつぱつ・めうぎ・い・かげん/つか・うすひ・はう・ヽヽばしや・の・やまみち・ど・ひ/かへ・おどろ

(以下続稿)

*1:光文社文庫版「ほかの土地」。

*2:光文社文庫版「もの」。

*3:光文社文庫版「二十五銭」。