瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

蓋にくっついた話(8)

 後半を並べて見よう。

【A】やまざれば、をやぢ、はらを立、うらをほりて、かのまりをうめんとせられしに、まり、箱よりづつといで、をやぢにむかひて、しるしにやなぎをうへてたべというた。*1
【B】さてよく日まりの箱みて、内義にもうされけるは、これみや。をれがゐけんしたれば、まりを捨をつたといわれければ、内義みて、をやぢどの、そそうな。まりはふたのうらについてあるといわれた。*2
【C】むすこ、しほ/\と鞠を出し、手代をよひ、今までもてあそんだ此まり、無下にすつるもあんまりじや。せめて庭の隅をほつてうめ、しるしに柳をうへてくりや*3
【D】むすこ、しほ/\と成て、それから後は、おやぢのるすばかりかんがへてける。ある時むすこのるすに、おやぢ、縁がわにてまり箱を見付、まだやめぬそふなと、そばへより、両手でそつとふたをあげ、内を見て、ハア、やめおつたそふな*4
【E】まだやめおらぬそふで筥があると、ずつとふたをあけて見て、ヲヽきどくに。やめたそふな*5


 【A】と【C】は鞠を埋めることにして、前者では鞠が自ら、後者では息子が蹴鞠に縁の深い柳を「しるし」つまり墓標にするように言っている。前者の「鞠、物を言ふ」のは奇抜だが後者はこれを合理化している*6
 【B】と【D】【E】はたこ焼きの話と同じ、蓋についていて気付かない話である。【B】は内儀が親父の勘違いを指摘するが【D】と【E】は親父の勘違いでオトしている。但し【D】は、挿絵で状況を説明している。挿絵は岩波文庫日本古典文学大系・噺本大系の何れにも収録されているが、岩波文庫の図版(144〜145頁)が大きくて鮮明である。【E】は必要な要素だけを残して、簡潔にまとめている。
 この小咄は、紐で蓋に括り付けて収納するというので、自然にくっついた話じゃないのだが、お笑い種として。

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 2月4日付(1)に、講談社KK文庫の常光徹楢喜八 絵『学校の怪談』シリーズに「タコ焼きの話」が載っているはずだと書いたが、これは『学校の怪談5』(一九九四年五月二十日第一刷発行・二〇〇〇年十月十八日第八刷発行・定価660円・講談社・165頁)の、「百物語」に(第30話から第60話まで)、「第54話 タコ焼きの話」として見えていた(142〜144頁、145頁挿絵)。

*1:振仮名「たて・はこ・やなぎ」。

*2:振仮名「ぢつ・はこを・ないぎ・すて・ないぎ」。

*3:振仮名「まり・いだ・てだい・この・むげ・には・すみ・やなぎ」。

*4:振仮名「のち・ゑん・はこ」。

*5:振仮名「はこ」。

*6:ちなみに【A】のみが今回私が追加した例だが、こうして並べてみると問題はなさそうだ。