瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(15)

 昨日は無駄話をして本題に入れなかったが、改めて末尾を比較してみたい。
 【B】『近代異妖篇』では一六七頁2行め(一)、一七七頁9行め(二)、一八九頁2行め(三)、の3節に分かれているのだが、【A】『子供役者の死』では切れ目は同じだが、九八頁1行め「」一〇八頁7行め「」一二〇頁3行め「」であった。とにかく最後の節の、【B】は一九五頁4行め、【A】は一二六頁6行めから引用する。直前1行空白となっている(空白の行は行数に勘定しなかった)、重兵衛の話が終わって、皆で話し合う場面である。
 まず【B】から。「 」ではなく『 』がセリフに使用されている。これは『飛騨の怪談』も同じである*1

『その旅人は何者なんです。』と、わたしは訊きました*2
『なんでも甲府の人間ださうです。』と、重兵衞さんは説明してくれました。『それから/一週間ほど前に、諏訪の温泉宿に泊つてゐた若い男と女があつて、宿の女中の話によ/ると、女は蒼い顔をして毎日しく く 泣いてゐるのを、男はなんだか叱つたり嚇した/りしてゐる樣子が、どうしても女の方では忌がつてゐるのを、男が無理に連れ出して/來たものらしいと云ふことでした。それでも逗留中は別に變つたこともなかつたので/すが、そこを出てから何處でどうされたのか、その女が顔から胸へかけてずた く に/酷たらしく斬り刻まれて、路ばたに抛り出されてゐるのを見つけ出した者がある。無【一九五】論にその連の男に疑ひがかゝつて、警察の探偵が木曾路の方まで追ひ込んで來たので/す。』
『すると、あとから來た筒袖の男がその探偵なんですね。』
『さうです。前の洋服がその女殺しの犯人だつたのです。たうとう追ひつめられて、/ピストルで探偵を二發撃つたが中らないので、もうこれまでと思つたらしく、今度は/自分の喉を撃つて死んでしまつたのです。』
 親父とわたしとは顔を見あはせて少時默つてゐると、宿の亭主が口を出しました。
『ぢやあ、その男のうしろには女の幽靈でも附いてゐたのかね。子供や犬がそんなに/騒いだのをみると……。』


 振仮名一覧。

たびゝと・なにもの・き
かふゝ・にんげん・ぢうべゑ・せつめい/しうかん・まへ・すは・をんせんやど・とま・わか・をとこ・をんな・やど・ぢよちう・はなし/をんな・あを・かほ・まいにちヽヽ・な・をとこ・しか・おど/やうす・をんな・はう・いや・をとこ・むり・つ・だ/き・い・とうりうちう・べつ・かは/で・どこ・をんな・かほ・むね・ヽヽ*3/むご・き・きざ・みち・はふ・だ・み・だ・もの・む【一九五】ろん・つれ・をとこ・うたが・けいさつ・たんてい・きそぢ・はう・お・こ・き/
き・つゝそで・をとこ・たんてい
まへ・やうふく・をんなころ・はんにん・お/たんてい・はつう・あた・おも・こんど/じぶん・のど・う・し
おやぢ・かほ・み・しばらくだま・やど・ていしゆ・くち・だ
をとこ・をんな・いうれい・つ・こども・いぬ/さわ

*1:1月9日付参照。

*2:光文社文庫版「訊いた」。

*3:「ずた」に傍点。