瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

森鴎外『阿部一族』の文庫本(5)

岩波文庫31-005-6『阿部一族 他二篇』(5)
 の底本について。
 は98頁の3行め、斎藤氏の解説の最後に(昭和十三年四月十四日)の日付があって、9行分の空白を挟んで左下に小さい活字で以下のような注記がある。

〔本書は、決定版の森鴎外全集(岩波書店刊)に拠り、岩波文庫の旧版『阿部一族 他/二篇を現代表記に改めたものである。〕


 この「決定版」は昭和26〜31年刊岩波書店第二次『鴎外全集』のことか。
 は119頁の裏(頁付なし)、やはり奥付の前の頁に小さい活字で細々と入っている。

〔編集付記〕
 一、底本には。『鴎外全集』第十・十一巻(岩波書店、一九七二年刊)を用いた。
 一、振り仮名については岩波版『鴎外歴史文学集』(二〇〇〇年)を参照した。
 一、解説は、文庫初版(一九三八年)以来の斎藤茂吉稿を踏襲した。
 一、左記の要領に従って表記がえを行った。


 以下「岩波文庫(緑帯)の表記について」がある。
 3月5日付に平成14年(2002)改版の岩波文庫山椒大夫高瀬舟』の〔編集付記〕の1項目めを引いた。『山椒大夫高瀬舟』では『鴎外歴史文学集』を底本にしていたのだが、平成19年(2007)改版のは昭和46〜50年刊岩波書店第三次『鴎外全集』を底本として、『鴎外歴史文学集』は参考扱いとしている。
 この平成14年(2002)改版の岩波文庫山椒大夫高瀬舟』の〔編集付記〕の2項目めは「一、左記の要領に従って表記がえをおこなった。」で、続いて「岩波文庫(緑帯)の表記について」がある。この「表記について」は『阿部一族』のそれとほぼ同文なのだが、5条ある細目の(一)条めだけが違っている。すなわち、『山椒大夫高瀬舟』では「(一) 旧仮名づかいを現代仮名づかいに改める。ただし、原文が文語文であるときは旧仮名づかいのままとする。」であったが、5年後の『阿部一族』では「ただし」以下がなくなっている。従って、「興津弥五右衛門の遺書」の文語文の遺書も、現代仮名づかいに改められている。

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 斎藤氏が解説の「阿部一族」条で指摘した「松野右京」と「松野左京」だが、これについてはスルーされている。古文書では「右衛門」と「左衛門」の判読に苦しむことが少なくないから、その類なんじゃないかと思う。それにしても最近の大河ドラマの書簡は読み易過ぎる。カンニングペーパーじゃないんだから小道具として昔みたいにリアルにやってもらえないものか。