瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

御所トンネル(5)

 一昨日からの続き。

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 『現代民話考』は、どうしてこんな勘違いをしたのだろう。
 第一に、分類し怪異の発生場所を検討した人物が、地理に暗かったことが指摘されよう。
 この項の「分布」には以下のように見える。単行本296頁11〜12行め、

○東京都新宿区信濃町。本文。
  文・高橋伸樹。出典・中村博編『東京の民話』(一声社)


 文庫版344頁7〜8行めは「○」が「*」になっている。それはともかく、『現代民話考』の地名は伝承地ではなく怪異の発生場所を示しているのであるが、『東京の民話』を見て地図と対照すれば、この幽霊が出た場所が当時の四谷區南元町、現在の新宿区南元町であることは容易に特定出来る。それを要約では省略した「国鉄信濃町駅」を活かしてか、「新宿区信濃町」としてしまっている。この辺りの地理が全く把握出来ていないのである。さらに「トンネルの怪」の例話(本文)としてしまった理由だが、まず、「くぐる」だけではトンネルを抜けていないような印象を受けたのだろうか。しかし「くぐる」のみで「くぐりぬける」の意味だから「くぐって少し行」けばそこはトンネルの中ではない。それから、「カンテラ」がトンネルの中を連想させたのかも知れない。しかしこれも、最終電車の時刻なのだからトンネルの中でなくてもカンテラを持っているのが普通だろう。
 それでも『東京近郊怪奇スポット』や『幽霊物件案内』の著者である小池氏であれば、要約である『現代民話考』ではなく場所を明記している原典の『東京の民話』に当たっておれば、この話がトンネル内での怪異ではないこと、すなわち『現代民話考』の「トンネルの怪」という分類がおかしいことは、すぐに了解されたはずである。要約が要点を全て押さえているとは限らない。省略されたところにどんな重要な情報がないとも限らない。だから、仮に何もなかったとしても原典に当たってみること、或いは初出と比較するということは、ゆるがせには出来ないのである*1。そこまで出来ないのなら、それをどこまでやったのかを断らないといけない。
 小池氏は「誤り」を踏襲したので、初めに「誤った」のは、小池氏ではない。しかしながら、4月12日付「常光徹『学校の怪談』(003)」に引いた、常光氏を批判しての「きっちり記録しておけるものはしておかないと、……分からなくなっちゃうんですよ。」という発言を読むとき、この小池氏の「御所トンネル」の記述は、不注意から「トンネルの怪」にされてしまった怪異に「御所トンネル」との固有名詞を付して*2混乱に拍車を掛け、怪談を「きっちり記録」するどころか却って「分からなく」させかねなかった*3訳で、看過しがたいのである。

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 私も十分詰めていない、中間報告のようなもので上げたりしている。しかしそれは、最終報告では省いてしまうような途中経過での枝葉をメモして置きたいからである。第一、版に定着させたものではない。それではどんなに「頑張った」つもりでも、選ばない人にとってはネット上のコピペと選ぶところがないであろう。だから、本を出す金なんかないから出版は無理としても、十分詰めたと思える調査結果については、別に決定稿を示して置きたいと思っているのである。

*1:要約になっていない「要約」もどきもない訳ではないので。

*2:他にトンネルもないから当然「御所トンネル」ということになる訳だが。

*3:今のところ実害には気付いていない。