昨日の続き。
一方『廃墟探訪』の方は、展開を変えている。③の部分を少し、左37行めまで、引いてみよう。
だが、あながち「噂は噂」と片づけられ/ない霊的な物件、悪霊が取り憑いた/としか思えないような物件も確かに存在する。/本書でも心霊豪農屋敷廃墟(P.134)、青梅/の呪われた一軒家廃墟(P.146)で紹介してい/るが、廃墟の中には前史の傷みに触れず、/そっとしておいた方がよい物件も確かにある。/筆者は先入観は持たず、ナチュラルに廃墟/に接してきたつもりだったが今では“廃墟に棲/む幽霊”――およそ、そんなものがいても不思/議ではないと考えるようになった。‥‥
ところで「青梅の呪われた一軒家廃墟」についてはRUIN FILE No.34として同題のレポート(1996年8月29日(木)晴)が載る。長文でかなり突っ込んだレポートと思うが、事件の時期などは148頁上段3行め・149頁上段18行め「昭和四十年代」から149頁中段1行め「さらにさかのぼること数十年前、/」と漠然としている。ちなみに「現代怪奇解体新書」92頁上段18〜19行め「母娘が手斧で刻まれた秩父/の一軒家」というのは、『廃墟探訪』149頁中段〜下段の内容と合致するようだが、『廃墟探訪』の書き方は少々奇怪である。149頁中段2〜13行め、
/峠の茶屋をこの場所で開いていた母娘が、/酔って激情にかられた客に手斧で殺されて/いた場所であったこともわかった。逃げた/母は現トンネル前で刺殺され、身寄りを失/った娘は、どこかの施設へ引き取られてい/ったという。
つまり、この物件は、家ではなくて、殺/人現場となった茶屋そのものだったのであ/る。噂よりもヒドイ事実……。ここはやは/り呪われた土地だったのだ。心霊スポット/など、好きだが信じてはいなかった筆者は/驚きを隠せなかった。
そして、このレポートの最後は次のように締め括られている。149頁下段22〜25行め、
母娘を手斧で殺した酔客というのは、土/木作業員の男であったという。
工事関係者を祟った母娘の怨念、そんな/事実が見え隠れする廃墟であった……。
ところで「現代怪奇解体新書」の方には99頁の上段・中段に当たる位置に横組みで「★……廃墟探訪記番外編「忘れられない廃墟たち」……★」と題して、1箇所につき1行、28箇所が簡単に紹介されているが、5番めが同じ物件だと思われる。
「現代怪奇解体新書」は92頁「秩父」99頁「東京都西多摩郡奥多摩町」と地名がブレているが、『廃墟探訪』146頁「■東京都青梅市黒沢」が正しい。しかし本文146頁中段14〜15行めに「建物の周囲には、秩父の鬱蒼とした草木が/生い茂り*1」とあって、やっぱり秩父だと思っているようだ。7月15日付(1)にも指摘したが、どうも中田氏は地名にはルーズらしい。
で、ここで問題にしている事件の記述だが、ネット上でも種々の不確実な情報が入り乱れている。その中ではHP「心霊スポット全国調査会」の、「吹上トンネル 考察」は、吹上トンネルの歴史と関連させつつ稲川淳二の語りやネット掲示板などで流布されている説について疑問を表明しており*2、参考になる。『廃墟探訪』にも突っ込みを入れている*3。
さて、中田氏の記述であるが、「現代怪奇解体新書」は2箇所とも「母娘が手斧で刻まれた」となっているが、『廃墟探訪』では同じ頁(149頁)のうちに「母娘を手斧で殺した」とか「殺人現場となった茶屋そのもの」と云いながら、「逃げた母は現トンネル前で刺殺され、身寄りを失った娘は、どこかの施設へ引き取られていった」などと矛盾したことを書いている。ネット上に諸種の異説が共存しているのと同じような按配である。
中田氏は148頁中段10行め〜下段1行めに「地元民の間では、ここは老夫婦が惨殺/された惨劇の館だと、まことしやか/に噂されていた。‥‥」のを、廃墟の遺留品から149頁上段13〜16行め「‥‥、どうやら、ここに老夫婦殺害の/事実はなさそう。やはり噂か、と思いつつ/も、筆者は一応ウラを取るべく、後日あら/ためて地元警察への聞き込みを行った。そ/こで何と……。」ということで、この「母娘」の事件を持ち出すのだが、警察で聞いたにしては、殺されたのが2人なのか1人なのか分からない書き方になっているのは、どうしてだろう。それから、事件の時期をわざと明示しなかったのであれば、それは1つの見識で、全体に時期をボカすような書き方になっているのだけれども、旧来の好い加減な噂を否定しようというのであれば、根拠はもっとしっかり示した方が良いと思う。出来れば小池氏のように新聞報道の確認まで。時期や根拠を明示しないのであれば、それは根拠薄弱な異説をもう1つ追加するのと何ら変わりない。――これも「演出」であるのであれば、別なのだけれども。
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途中で青梅市の廃墟に突っ込んでしまって、想定以上に長くなり、今日の最初に引用した箇所について検討する余裕がなくなってしまった。一応今日はこれで切り上げて置く。(以下続稿)