瑣事加減

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松本清張『影の車』(4)

松本清張小説セレクション中央公論社
第24巻影の車1994年10月30日初版印刷・1994年11月10日初版発行・定価1553円・357頁 
 このシリーズについては9月14日付「松本清張『内海の輪』(6)」に略述した。その最後に第26巻・第27巻の「黒の様式」収録作品が『松本清張全集9』と異なることを指摘したついでに、何故そのようにしているかについては、本書に触れるときに述べる、として置いた。それというのも、本書も他の文庫版や『松本清張全集1』所収「影の車」と、収録作品が異なるのである。
 8月29日付(3)でも触れたように「影の車」は「婦人公論」連載時には8話であったが、連載の第八話「突風」が単行本に収録されず、以後の諸版もそれを踏襲していた。「突風」のみ『松本清張全集』にも収録されていない。松本清張小説セレクションはその「突風」を、収録しているのである。
 これについて編集の阿刀田高は巻末347〜357頁「〈編集エッセイ〉さまざまな手法」で各作品についての印象について述べた最後、356頁7〜16行めに「突風」を取り上げについて述べ、さらに以下のように編集方針の説明に及んでいる。356頁17行め〜357頁9行めでこのエッセイの末尾。なお、この文章は『松本清張あらかると』237〜247頁に「24 さまざまな手法――〈影の車〉――」と題して加筆修正の上再録されている。当該箇所(246頁10行め〜247頁1行め)の異同箇所を灰色の太字にして示し、注に『松本清張あらかると』の形を示した。また、改行位置を「|」で示した。

 そして、もう一つ、ここでこの*1セレクション全体の編集方針についても触れておこう。松本清/張に|は数多くの短篇連作集があるが、シリーズとして雑誌等に発表された後、単行本として出版/され|るとき、若干の取捨選択がおこなわれたケースが過去には多い。そこでこの*2セレクションで/は、でき|るだけ初出のときの形で編集することを心掛けた。
 連作集〈影の車〉は、すでに何冊か単行本として上梓されているが、この〈突風〉を欠いて、/|七篇で編まれているケースがほとんどである。なぜ単行本編集のときに〈突風〉だけが削られて/|しまったのか、私には積極的な理由を見出すことができない。ちなみに言えば、〈影の車〉は/|<婦人公論*3誌の昭和三十六年*4一月号〜八月号に発表され、その順序は〈確証〉|<万葉翡翠〉<薄/化粧の男〉<潜在光景〉<典雅な姉妹〉<田舎医師〉<鉢植を買う女〉<突風〉であ|った。ここ*5では、/その配列にのみ手を加えた。


 すなわち、松本清張小説セレクションの「黒の様式」から『全集』では抱き合わされている「死んだ馬」が省かれた理由は、当該巻では特に断っていないのだがこの方針に従ったものと見て良いであろう。ちなみに本書は第3巻『ゼロの焦点』とともに初回の配本である。しかしそうだとすると、おかしい、と言うか、編集努力の足りないところが、以後の巻にはあるのである。
 1〜2頁(頁付なし)「目次」、3頁(頁付なし)中扉「影の車」。5頁から本文で1頁16行、1行43字。各作品の冒頭、1字下げ3行取りで標題、さらに3行空白があって、7字下げ2行取りの算用数字斜体で章番号で、これは既に見た第26巻『黒の様式Ⅰ』第27巻『黒の様式II』に同じ。細目や配列については、他の諸版とまとめて追って一覧にして示すつもりである。
 ここでは地図について触れておく。これも記載内容については他の諸版とまとめて追って記述するつもりなのだが、中公文庫には8月3日付(1)で見たように初版と改版が存するが、本書は中公文庫初版の地図を踏襲していない。そして、中公文庫改版は本書の図を縮小して掲載している。すなわち、「万葉翡翠」の地図が本書103頁は12.6×8.8cm、中公文庫改版117頁11.7×8.1cm。「薄化粧の男」の地図は本書229頁左上(23字×12行分)に7.0×6.5cm、中公文庫改版201頁左上(23字×12行分)に6.5×6.0cm。――松本清張小説セレクションのために新たに描図したものを中公文庫改版の編集にも活用している訳だが、こうした依拠関係は、本文の方にも及んでいるようである。尤も、細かく比較する余裕がないので僅かな部分の比較からの見当に過ぎないのだが。(以下続稿)

*1:松本清張あらかると』なし。

*2:松本清張あらかると』なし。

*3:松本清張あらかると』は「『婦人公論』」鍵括弧開きは半角。

*4:松本清張あらかると』はここに「(一九六一年)」を挿入。

*5:松本清張あらかると』には「セレクション」。