瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(27)

 昨日の続きで小沢信男編『犯罪百話 昭和篇』について。
 昨日「色を失い」と書きましたが、それは、続けて所蔵している図書館を検索するとともに、内容について記述しているところがないか検索して逢着したpataのブログ「Le passe-temps」の2010/06/01「犯罪百話〈昭和篇〉〔小沢信男/編集〕」に示された【目次】に、

6 三面記事の世界
(「赤マント」社会学 生きている「団地内主婦殺し」 21面相の手紙抄 ほか)

とあったからでした*1vzf12576氏からのコメントにて、「わたしの赤マント」に書いている広尾の都立中央図書館での『朝日新聞縮刷版』点検の後、小沢氏は国会図書館にも出向いて記事の探索をしていたらしいことが察せられましたので、「讀賣新聞」の記事は見付けられなかったとしても、他紙の「三面記事」に於ける「赤マント事件」の扱いについて、既に確認済みなのではないか、という疑いを持ちました。もちろん、そうだとしても私のように記事を書写してそのまま紹介するような行き方はしていないはずだから、ここまでの報告が無駄になることはないのですが、しかし決りが悪いことこの上なしです。尤も研究をしていても、同じ作業を何十年も前に済ませた人がいたことに、調査の途中で気付くということは、実はありがちなことなのですけれども。
 しかしながらそうではなくて、奥付の裏にある「ちくま文庫」の目録1頁めの6つめが本書で、続いて柳瀬尚紀編『猫百話』、

猫百話 (ちくま文庫)

猫百話 (ちくま文庫)

種村季弘編『東京百話』天の巻・地の巻・人の巻、
東京百話〈地の巻〉 (ちくま文庫)

東京百話〈地の巻〉 (ちくま文庫)

東京百話〈人の巻〉 (ちくま文庫)

東京百話〈人の巻〉 (ちくま文庫)

種村季弘池内紀 編『温泉百話』東の旅・西の旅が、3頁め11点めに増谷文雄 編『仏教百話』、
仏教百話 (ちくま文庫)

仏教百話 (ちくま文庫)

そしてカバー裏表紙折返しに「ちくま文庫のドキュメント」として20点挙がるうちの18番めに鶴見俊輔中川六平 編『天皇百話』上の巻・下の巻
天皇百話〈上の巻〉 (ちくま文庫)

天皇百話〈上の巻〉 (ちくま文庫)

天皇百話〈下の巻〉 (ちくま文庫)

天皇百話〈下の巻〉 (ちくま文庫)

と、書影を示せるものは出して置きましたが、当時ちくま文庫から続刊されていた『○○百話』というアンソロジーのうちの1冊なので、小沢氏が新たに書いたところは529〜536頁、「一九八八年八月八日」付の「編者あとがき」だけなのでした。この「編者あとがき」には赤マントのことは何ともしてありませんが、編集方針について以下のように断ってあるのが注意されます。533頁13行め〜534頁2行め、

‥‥。この『犯罪百話 昭和篇』は、/先行の『東京百話』『温泉百話』にちなみつつ、より濃く昭和の市井稗史のこころでありま/す。これも鋏と糊の作業でしたが、編むにあたって一つの、または二つの方針を設けました。/新聞記事の類は採らず、また、小説までは手をひろげないこと。
 ここに一つの事件があり、そのなまなましい速報から、やがて換骨奪胎のフィクションま/での長い道程があるとして、その両端は除外する。尾頭ぬきの、ひたすら胴体の美味しいと/ころを、各種各様、百花繚乱に盛りつけてお届けしよう、という板前の心意気です。


 確かに速報の新聞記事は「なまなまし」くはありますが、その時点では分かっていないことも多いので、偏りは免れませんし、数も多いので集めて優劣を判定するのは大変です。初めから採用しないという方針は賢明でしたろう。それはともかく、そもそもこういう方針で、だから新聞記事を漁ったりはしていないだろうと少し安堵の胸を撫で下ろしたのでした。
 さて、本書は似たような傾向の文をまとめて8つに章分けしてあるのですが、章題はうち1篇の題を流用しているので、321〜384頁「6」章は犯罪報道についてまとめた章なのですが、その1篇、322〜343頁、鶴見俊輔「三面記事の世界」を章題にしたまでなのです。
 ところで本書には座談会なども含めて50篇が収録されています。100話の半分でしかないのですが、残り50篇は「明治・大正篇」でも予定されていたのでしょうか、いなかったのか、他の『○○百話』も特に100話にしようとしていないようですし、とにかく『犯罪百話』はこの『昭和篇』の他は、出ていないのです。
 私は以前はアンソロジーを読むくらいなら原書を1冊1冊読む、という気分でいましたが、それは若気の至りで、最近は面倒臭くなってきて、アンソロジーでも構わず読むようになりました。この『犯罪百話』も面白く読んでおります。ただ、何か著述に使う場合はやはり原書に遡らないといけないでしょう。それはともかく、大宅壮一「「赤マント」社会学」ですが、鶴見氏の文の次、344〜353頁に「「赤マント」社会学――活字ジャーナリズムへの抗議」と題して収録されています。末尾、353頁7行めに小さく「(「中央公論昭和14年4月号)」と初出が示されています。単行本には収録されていなかったようです。(以下続稿)

*1:尤も、この目次は筑摩書房のサイトの本書の紹介をコピーしたもののようです。ちなみに版元サイト内情報はGoogle等で検索しても引っ掛からないようです。