瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(40)

 順番が前後しましたが「都新聞」昭和十四年二月廿四日(金曜日)第一万八千四百三十三號の(十五)面*1、14段組のうち12段めまでが記事で下2段が広告、11〜12段めの左に「天気予報」、12段めのその右に「|デパート欄は第八面にあり|本日朝刊十六頁」とあります。その右に「シナバ茶」というコラム、さらにその右が「岡本かの子女史」の訃報(右に太い傍線)で、丸く切った顔写真があります。
 その同じ紙面の中央やや上、4〜7段めの4段抜きの見出しで「令孃までが"捕へてよ/苦笑と溜息の江副課長"流言犯人は嚴罰だゾ"妖説"赤マント"調伏係り大クサリ」見出し2行めは「孃」の字の真横から、3行めは「ま」の字と同じ高さから、なお3行めは明朝体の1行めよりも一回り小さいです。この見出しの左、4〜6段めに写真があって、手前に机の上に広げた投書らしき封筒と便箋を前に座る短髪で眼鏡の男性、左(向かって右)を向いていて横顔しか分かりません。その顔の先にはおかっぱの少女が2人微笑んで、背の高い少女は前に立っている妹らしき少女の両肩に手を置いています。そしてこの写真の右下隅にマントを翻しているらしき中折帽の男の胸から上の墨絵のスケッチがあるのですが、赤マントの想像図でしょうか。この写真の下に「孃令と氏副江る語をトンマ赤」とのキャプションがあります。記事は7〜9段めで、1字下げのところはルビがなく行間が詰まっています。年齢の漢数字は小さく、2桁めが右寄せ、1桁めが左寄せ。本文中の「“ ”」は「〃」に近いものを使用。くの字点は仮に太字「/\」にして示しました。

AKでは昨廿三日夜七時のニユー/ス、官廳告示事項後警視廳情報課/發表として*2
 最近東京市内小學校、女學校で/ 赤マントを着たセムシ男が彷徨/
 し云々と云ひ觸らされて居りま/ すがかういふ事實は全然無根で/
 警視廳では嚴重この流言を取締/ ることになつて居ます、皆さん/
 はかういふ樣な話はお互に一切/ 交はさないやう御注意下さい
と一般市民の喚起を促した――吸/血鬼“赤マント”彼はセムシで常/に赤マントを着て夜毎に婦女子を/襲つて血を吸ふといふ――「弱つ/た弱つた」と廿三日夜、麹町區隼/町の官舍で姿なき“赤マント”と/取つ組んだ取締の元締警視廳情報/課長江副さんは悲鳴をあげた*3
 勿論、姿を見た者が居る譯では/ なし荒唐無稽な流言だけに始末/【7段め】
 が惡い
と悄氣る傍から長女上野高女一年/生の靜子(一五)さんがいろ/\な情/報を父親を教へる*4
 けふ朝禮のとき校長の石橋先生/ が訓示したわ、赤マントなんて/
 言つちやいけないつて……だけ/ ど凄いのよ、出ツ歯でセムシで/
 頭に禿があつて眞ツ赤なマント/ を着てるの、最初は北千住に出/
 たつて……
うふツと課長さん噴き出したもの/の笑へない、麹町小學校へ通つて/ゐる次女のみち子(一一)さんも凄い//\と大騒ぎなのである*5
 私はかう思ふんです、例のピス/ トル強盗の影響じやアないかと/
 ね、投書なんかも王子、瀧野川/ を始め市内各署に飛び込んで來/
 ますが相手が居なくちやどうに/ もならん、四、五年前に“黄金/
 バツト”と稱する奴が流行つた/ が紙芝居の影響だつた、赤マン/
 トもあまり流行るんで仕方なく/ ラヂオで放送した、警視廳で流/
 言取締を放送したのは古今未曾/ 有のことですよ、赤マント係に/
 田中警部を專任させてそろ/\/ 取締りに掛つたが間もなく立消/
 えます、何故か重苦しい不安な/ やうな社會情勢下にはつきもの/
 で又、先日板橋署に捕まつた婦/ 人に抱きつく變態少年も流言に/
 一役買つてゐますよ、あゝ馬鹿/【8段め】 馬鹿しい、私は市民諸君にキツ/
 く言つて置きますよ、デマなん/ か飛ばしてゐる現場を捕まへた/
 ら拘留廿九日以内、十九圓九十/ 九錢迄の科料に處しますからね
娘さん達に「早く捕まへてよ」と/アヂられて此の夜の情報課長は大/クサリだつた*6


 面白い記事ですが、入力だけで長くなりましたので明日、検討してみることとします。(以下続稿)

*1:「F」とあり。

*2:ルビ「さく/くわんちやうこくじ・けいしちやうぜうほうくわ/はつへう」。

*3:ルビ「はんしみん・くわんき・うなが・きふ/けつき・あか・かれ・つね/あか・き・ごと・ふ/おそ・ち・す・よわ/よわ・かうぢ・く/くわんしや・すがた・あか/と・く・とりしまり・しめけいしちやうぜうほう/くわ・えそへ・ひめい」。

*4:ルビ「せうげ・そば・の/しづ・ぜう/ほう・おや・をし」。

*5:ルビ「くわ・ふ/わら・かうぢ・がくかう/じ・すご」。

*6:ルビ「むすめ・たち/こ・ぜうほうくわ」。