瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(108)

・大阪附近の赤マント(4)
 前回も書いたように、大阪の赤マントの記事は『〈新聞/集成〉昭和編年史』の『昭和十四年度版III*1』(平成四年六月一日印刷・平成四年六月十三日刊行・定価二五、七五〇円(税込)・18+868+20頁)に掲出されています。
 目次には「七月一日」のところ、1頁1段めに「とんでもない赤マントの流言…………一〇」と出ており、「国立国会図書館サーチ」にはこの目次がそのまま入力されているので、検索するとヒットします。
 本編の10頁、この頁も5段組に配置されていますが、2〜5段めに組み替えて収めています。初めに「7・1大毎夕(二)」とあります。
 すなわち「大阪毎日新聞昭和十四年七月一日(土曜日)付、第二万百九十四号の「夕刊」、すなわち(一)面*2の題字の下に「刊夕/日十三月六」とあって6月30日(金曜日)の午後の新聞、その(二)面*3、9段まで記事で以下5段分は広告、その5〜9段め、見出しは5〜6段めの2段抜きで「馬鹿げた噂を怖がるのは/日本の子供の恥です/とんでもない赤マントの流言」とあって、ゴシック体の箇所は大きく、かつ傍点「〃」が打たれています。“ ”としたのは紙面では「〃」とその上下反転、1字下げのところは振仮名がなく行間が詰まっています。
 なお『〈新聞/集成〉昭和編年史』の2〜4段めはもとの紙面の5〜7段めそのまま、5段めは紙面の8〜9段めを1段にまとめています。

“灯ともしごろともなれば、どこ/からともなく赤裏のマントを着た/怪漢が現れ少年少女を襲つて、吹/き矢を吹きあてゝ血のしたゝりを/吸ひ取る”――かうした飛んでも/*4【5段め】なく馬鹿げた流言飛語が東京で誠/しやかに傳へられたのはついこの/間のこと、警視廳が學童や家庭に/事實無根の通達を出したり、放送/局が乘りだして流言に惑はされる/*5【6段め】なのアナウンスをしたり、一時は/騒いだものだが、この“赤マント/の怪人”の噂がいつの間にか京阪/神地方の子供たちを脅かしてゐる/喜劇「赤マント西へ行く」だ、中/でもひどいのは豐中、池田兩市と/東、北大阪方面で*6
 豐中第一、第二、第三各小學校の女/
 生徒の間では「便所のなかに赤マン/
 トを着た男がうづくまつてゐた」と/
 かなんとかの子供らしい噂がひろま/
 り、北大阪ではそれが赤マントの/
 「ヂゴ/\婆」と名までつく有樣 
これらの噂ばなしを裏づけるよう/に大人まで「いや東京と違つて、/大阪には四人の業病患者が赤マン/トを羽織つて潜入し、それが生血/を吸ふために出沒してゐるのだ」/と途方もない尾鰭までつけられる/ようになつたので、噂を聞きこん/*7【7段め】だ府特高、刑事兩課では棄てゝも/おけず、さうした惡質なデマ放送/をやる無智な徒輩をピシ/\取締/ることになつた*8
高野府警察部長談*9  東京の話が傳は/り傳はつて、大/阪でもいひふら/
 されるようになつたのだらうが/
 大阪でかへつて大きくされてゐ/【8段め】
 るのは、デマの本質とはいへ大/
 阪が知的に遲れてゐるのを白状/
 するようで恥しいことだ。相手/
 がものに感じやすい小學生たち/
 のことだから一層困る、かうし/
 た時勢には民心の動搖を狙ふ流/
 言飛語が傳はりやすいもので、/
 根も葉もないことがまことしや/
 かに語り傳へられるが、學校や/
 家庭でも兒童たちに納得のいく/
 よう説き聞かせていたゞくとと/
 もに、取締當局でも不埓なもの/
 を摘發すべく努力するつもりだ


 東京の噂がそのまま大阪に伝わって来たように書いていますが、附されている大阪府警察部長の談話は流石にそんなことは云っておらず、東京のものが増幅されたと指摘しています。例えば「吹き矢」で滴らせた血を吸い取るなどという辺りは、東京では今のところ確認しておりません*10
 それから大阪では「赤裏のマント」ということになっているようですが、東京では2013年11月20日付(30)に引いた、昭和14年(1939)3月に書かれた大宅壮一「「赤マント」社會學」では一説として言及され、小説ですが2013年10月26日付(05)に引いた北杜夫『楡家の人びと』では登場人物の作り話として、それからやはり小説でかつ昭和16年(1941)の回想なのですが2013年12月27日付(67)に引いた中島公子「坂と赤マント」に見えていますが、裏地が赤というのは、主流という訳ではなさそうでした。(以下続稿)

*1:表紙に拠る。目次には「昭和十四年度版第III巻」、奥付には「十四年度版III」とある。

*2:「第三版」とあり。

*3:「C」とあり。

*4:ルビ「おそ」。

*5:ルビ「か・りう・ひご/つた/けいしてう・どう・てい/じつ・こん・たつ・ほうそう/きよく・の・りう」。

*6:ルビ「/さわ/くわい・うはさ/おびや/きげき/とよ・れう/めん」。

*7:ルビ「うはさ・うら/ちが/ごうべうくわん/せん・ち/す・ぼつ/と・をひれ/うはさ」。

*8:ルビ「とく・けい・れうくわ・す/あく・ほうそう/ち・とはい・しま/」。

*9:大きく3行取り、以下本文3行はこの下に下詰め

*10:2016年7月31日追記2016年8月1日付(151)に述べたように、この件は東京でも既にほぼそのままの形で行われていた。