瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(287)

北杜夫の赤マント(2)
 『楡家の人びと』の材料については、2014年7月12日付「北杜夫『楡家の人びと』(06)」に、晩年のエッセイ集『マンボウ 最後の大バクチ』の記述を、2014年7月13日付「北杜夫『楡家の人びと』(07)」に見た「北杜夫全集月報 6」と、2014年7月28日付「北杜夫『楡家の人びと』(08)」に比較して見たことがあります。
 他のエッセイにも記述がありそうなのですが、北氏が赤マント流言の頃に患っていた急性腎炎について、そのままにしていたのと同様、滞って6年も経ってしまいました。
 ずっと、何となく、気に懸かっておりながら、まぁ、それなりになっておったのですが、最近、次の、歿後刊行のエッセイ集に『楡家の人びと』に関する記述を見付けまして、しかしながら「北杜夫『楡家の人びと』(10)」にしないのは『楡家の人びと』の資料としては問題があってそのまま使えないところがあるからで、実はその記憶違いの箇所に、貴重な赤マント流言の証言が含まれているのです。
北杜夫マンボウ最後の家族旅行』2012年3月25日初版第1刷・定価1200円・実業之日本社・189頁・四六判上製本

マンボウ最後の家族旅行

マンボウ最後の家族旅行

  • 作者:北 杜夫
  • 発売日: 2012/03/15
  • メディア: 単行本
実業之日本社文庫『マンボウ最後の家族旅行』2014年10月15日 初版第一刷発行・定価574円・253頁
マンボウ最後の家族旅行 (実業之日本社文庫)

マンボウ最後の家族旅行 (実業之日本社文庫)

  • 作者:北 杜夫
  • 発売日: 2014/10/03
  • メディア: 文庫
 単行本のカバー表紙にはマンボウの他に女性ガイドと野球選手の2人しかいないが、文庫版ではさらに2人、無人の車椅子を押す女性と、キャリーケースを引く男性の4人になっています。この2人は、単行本ではカバー裏表紙に描かれていました。
 単行本と文庫版の関係ですが、単行本189頁の裏、奥付の前の頁の下部中央に、

初出「月刊ジェイ・ノベル」
連載エッセイ「マンボウ夢草紙」
二〇一〇年二月号から二〇一一年一二月号まで
 
「妻・斎藤喜美子が語るマンボウ家の五〇年」
二〇一二年三月号
 
写真提供/斎藤喜美子

とあり(「/」は原文にあり)、文庫版253頁の裏、「実業之日本社文庫 最新刊」9点(3点めが本書)の目録の前の頁(裏が奥付)に、

初出 月刊ジェイ・ノベル
連載エッセイ「マンボウ夢草紙」
2009年9月号から2011年12月号まで
 
マンボウ家の五〇年」
2012年3月号
 
「父が遺したユーモア」
書き下ろし
 
単行本 2012年3月 小社刊
 
文庫化にあたり、「骨折騒動記」「マンボウ入院/記(その一~三)」「軽井沢へ」(『マンボウ家の/思い出旅行』〈2010年1月 小社刊〉収/録)を増補し、雑誌掲載時のヒサクニヒコ氏の/挿画を全点収録しました。

とあり(「/」は改行位置)、かなりの増補があります。
 まづ「月刊ジェイ・ノベル」に発表されたものを一覧にして置きましょう。そのために次の本も借りて来ました。
北杜夫マンボウ家の思い出旅行』2010年1月25日初版第1刷・定価1300円・実業之日本社・252頁・四六判並製本

マンボウ家の思い出旅行

マンボウ家の思い出旅行

  • 作者:北 杜夫
  • 発売日: 2010/01/20
  • メディア: 単行本
 こちらは、252頁の次の白紙の裏、奥付の前の頁に「[初出]/「マンボウ夢草紙」(月刊ジェイ・ノベルで連載中)/’05年7月号から’10年1月号まで」とあって、収録されている期間は4年半、1頁19行、1行43字、挿絵は収録しておらずかなりの文字数です。一方『マンボウ最後の家族旅行』の単行本は2年弱、1頁16行、1行37字、表に「絵」と添えて示したように全てではないが挿絵も収録して、さらに妻のインタビュー、娘の寄稿を添えても薄いので、上製本にして表紙で厚さを稼いで何とか『マンボウ家の思い出旅行』と同じくらいの厚みにしたようです。『マンボウ最後の家族旅行』の最後の5篇を文庫版に収録したのは、単行本の巻頭「肺炎で又もや入院」の書き出しが、6頁2行め「 ようやく退院出来たと思ったら、今度は肺炎で入院することになった。」なので、その「退院」の方の「入院」の顚末から補って置いた方が良いとの判断からでしょう。なお『マンボウ家の思い出旅行』までの「マンボウ夢草紙」はそのままの形で文庫化されていないので、5篇取ったところで何の支障もないのです。『マンボウ最後の家族旅行』が文庫化されたのは〈絶筆〉と云う《売り》があるからでしょう。――『楡家の人びと』の資料としては『マンボウ家の思い出旅行』の方が遥かに有用なのですけれども。
 初出誌を見た訳ではないので「初出」は(推定)です。それから、単行本に挿絵を掲載しているものに「絵」と添えましたが、収録位置は示しませんでした。

単行本 文庫版 初出(推定)
骨折騒動記 228~232 6~12 2009年9月号
マンボウ入院記(その一) 233~237 13~20 2009年10月号
マンボウ入院記(その二) 238~242 21~27 2009年11月号
マンボウ入院記(その三) 243~247 28~35 2009年12月号
軽井沢へ 248~252 36~42 2010年1月号
肺炎で又もや入院 6~11 43~49 2010年2月号
ハワイにつれてゆかれた事 12~18絵 50~56 2010年3月号
ハワイから帰国した翌日に、もう苗場へ 19~25 57~64 2010年4月号
スキー場から帰ったら、熱海へ 26~32絵 65~72 2010年5月号
またもや箱根へ 33~39絵 73~79 2010年6月号
どくとるマンボウ昆虫展 40~45 80~86 2010年7月号
上高地再訪 46~52絵 87~93 2010年8月号
初夏の軽井沢ふたたび 53~58 94~100 2010年9月号
上山城での「どくとるマンボウ昆虫展」 59~64 101~107 2010年10月号
娘に引かれて善光寺参り 65~71絵 108~114 2010年11月号
私を昆虫マニアにしてくれた先輩 72~77 115~121 2010年12月号
カラオケ初体験 78~84絵 122~128 2011年1月号
紅葉の京都 85~91絵 129~135 2011年2月号
『楡家の人びと』の独訳のことなど 92~97 136~142 2011年3月号
恐ろしい娘によるリハビリと私の認知症 98~103 143~149 2011年4月号
私の散歩 104~109 150~156 2011年5月号
京都の親戚を訪ねる 110~116絵 157~163 2011年6月号
娘の植えた桜 117~122 164~170 2011年7月号
神奈川近代文学館 123~128 171~177 2011年8月号
白い御飯 129~134 178~184 2011年9月号
NEC軽井沢72 135~141絵 185~191 2011年10月号
軽井沢あれこれ 142~147絵 192~198 2011年11月号
〈絶筆〉/又もやゴルフ見学 148~153 199~205 2011年12月号
齋藤喜美子「マンボウ家の五〇年」 155~181 207~236 2012年3月号

 齋藤喜美子は夫人で、末尾(単行本181頁7行め・文庫版236頁14行め)に下寄せで「(二〇一二年一月一六日談)」とあります。さらに書籍化に際して一人娘の文章が準備され、文庫版では新潮社の編集者だった小島千加子(文芸評論家)の「解説」が追加されています。

斎藤由香<あとがきに代えて>/父が遺したユーモア」 182~189 237~245
小島千加子「解説 北さんの最後の日々」   × 246~253

 赤マントの記述があるのは「『楡家の人びと』の独訳のことなど」なのですが、長くなったので内容は次回、確認することにしましょう。

 この号に載っているはずなのだけれども、流石に書籍化に当たって加筆修正など行っていないと思うので、余程のことがない限り見に行かずに済ませることとします。(以下続稿)