瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

山本禾太郎「第四の椅子」(3)

讀賣新聞社「本社五十五周年記念懸賞大衆文藝」(3)
 この懸賞ですが、昭和三年一月三十日(月曜日)付「讀賣新聞」第一萬八千二百八十六號(市内版)*1の(二)面*2、12段組の7〜10段め中央から左に4段抜きの囲みで、上部に「念記年周五十五第立創社本」とあり、右に見出しが「新日本に寄與する/八千圓懸賞論文に、長篇小説に、大衆文藝に/新人の奮起を促す」とあります*3。ついでやや大きな字のリード文に、

今年は本社創立第五十五周年に相當する。
時はいま普選時代にして、同時に万有科學の全盛時代、 大衆は政治に生き/文學に生き、また科學に生く、この時に當り、本社が創立第五十五周年記/念計畫として左記三大懸賞を公募するは、意義ある事と思ふ。

とあって「大衆文藝」だけでなく「論文」と「長篇小説」も募集されていました。
 出来ればこの懸賞の一部始終を紹介したいのですが、10月6日付「山本禾太郎「東太郎の日記」(1)」の前書きにも述べたように、山本氏に関わる「大衆文藝」について、しかも文字の小さい複写しか取っていないので、以下、差当り「大衆文藝」関係の記述を拾い、適宜「論文」や「長篇小説」にも触れることとします。
 この社告に戻って、「論文」は「賞金 一等二千圓、二等五百圓、各一篇づゝ」で「締 切 來る四月末日限り」云々とあります。「長篇小説」の要項は「大衆文藝」とも重なりますので、以下全文を抜いて置きましょう。

  ――――――――――――――――――
  長篇小説 締切=來 る 六 月 末 日 限 り
  ――――――――――――――――――
 賞 金 一等三千圓、二等千圓、各一篇づゝ
 審査員 正宗白鳥小山内薫、武者小路實篤、廣津和郎、柴田勝衛氏等
[ 希 望 條 件 ] 新聞小説として興味中心の純創作たる事を第一條件とし、飜譯飜案は採用せず、分量=一回
         分四百字詰の原稿紙三枚半、百二十回以上百五十回以内、最初の廿回は原稿のまゝ殘餘は梗
         概だけでも宜し、豫選後續稿を徴して入選を決す、但し原稿は返却せず
  ――――――――――――――――――
  大衆文藝 締切=來 る 六 月 末 日 限 り
  ――――――――――――――――――
 賞 金 一等千圓、二等五百圓、各一篇づゝ
 審査員 三上於菟吉白井喬二甲賀三郎吉川英治、寺尾幸夫氏等
[ 希 望 條 件 ] およそ大衆的興味を繋ぐ讀物なら、時代の如何を問はず史實の如何を問はずまた飜案たるも
         妨げない、分量その他は長篇小説の塲合と同じ
普選時代の文學は何を生む? そは云ふ迄もなく、文學形式の舊套を脱し、あらゆる階級に滲透し、老若男女を*4
問はず、恒に大衆と共に喜び、共に悲しみ、社會万人の 魂 を搖がすところの、清新味に富める、一大民衆藝術*5
であるべきだ。これ即ち現代人の最も痛切に要求する文學であるが、而もこの要求を滿たし得べきもの、現在の*6
ところ本紙が將に募らんとする長篇小説と大衆文藝とを措いて他に求めべくもない。新人掘起の機會は今だ。振*7
つて此の明るい藝術上の聖戰に跳躍されたい。*8
  昭和三年一月三十日       讀 賣 新 聞 社


 最後の5行には振仮名があるのですが私の手許の複写では文字が潰れて読み得ませんでした。追ってマイクロフィルムにて校正する機会を得て、本文の読み得なかった文字等とともに追加・修正したいと思っています*9。(以下続稿) 

*1:上欄外に右からの横組みですがそのまま再現しませんでした。

*2:全4頁。

*3:文字は全て明朝体です。

*4:12月13日追記】ルビ「ふせんじだい・ぶんがく・なに・い・まで・ぶんがくけいしき・きうたう・だつ・かいきふ・しんとう・らうにやくなんによ」。

*5:12月13日追記】ルビ「と・つね・しう・とも・よろこ・とも・かな・しやくわい・にん・たましひ・ゆる・せいしんみ・と・みんしうげいじゆつ」。

*6:12月13日追記】ルビ「すなは・げんだいじん・もつと・つうせつ・えうきう・ぶんがく・しか・えうぼう・み・う・げんざい」。

*7:12月13日追記】ルビ「ほんし・まさ・つの・ちやうへんせうせつ・しうぶんげい・お・た・もと・しんじんくつき・きくわい・いま・ふる」。

*8:12月13日追記】ルビ「こ・あか・げいじゆつじやう・せいせん・てうやく」。

*9:本当は投稿前に確認作業を済ませて置くべきなのだけれども、投稿するつもりでないとなかなか入力も出来ないので……。【11月24日追記】漸く校合して修正することが出来ました。11月24日付(08)まではマイクロフィルムではなくヨミダス歴史館ですが照合して修正を加えました。振仮名は近日中に補うことにします。【12月13日追記】振仮名を補った。