・讀賣新聞社「本社五十五周年記念懸賞大衆文藝」(14)
昨日の続きで、吉川英治の選評の、総評部分を見て置きましょう。省略せずに全文を引きます。
豫選原稿八篇、前日の朝から徹/宵翌日まで期待と興味をもつて一/氣に通讀した。
作家は多くありながら現在ほど/雜誌の編輯者がなほ作家を要望し/てゐる時代は今までにないだらう/と思はれる。大衆文學の新興的な/氣運はかなり揚がつてゐるが時代/を享け取る次の新しい作家が出な/いといふことは、誰もが嘆じてゐ/る所であるし、雜誌編輯者の惱み/の一つだといつてもいゝ位である
大衆文學の耕地には、それ程人/があつて人がない。私はこの選に/あたつてさうした點でも多大の期/待を持つた。そして私の態度は、/おそらく新聞小説といふ形をもつ/た創作には不馴れであらう作家に/許せるだけの許容を前提にして、/なるべく作品の好い點と作家のい/い素質を見出すことに心がけて選/稿に向つた。
以下、忌憚のない讀後の寸感を/言つてみると‥‥
続いて個別の評に移るのですが、それは他の選者のものと合わせて明日以降作品別にまとめて紹介することとします。ここでは昨日白井氏・甲賀氏・寺尾氏について示したように、作品を取り上げた順序と行数、それから11月27日付(11)に示した採点表の点数に基づく順位を表にして示して置きましょう*1。
作品名 | 行数 | 順位 | 点数 |
---|---|---|---|
「めぐる仲仙道」 | 8行 | 8位 | 55点 |
「劍難時代」 | 6行 | 3位 | 78点 |
「戀慕夜叉」 | 12行 | 4位 | 76.8点 |
「不戰時代」 | 17行 | 5位 | 74.4点 |
「南蠻緋玉双紙」 | 10行 | 7位 | 62点 |
「影繪双紙」 | 21行 | 1位 | 90.4点 |
「河豚クラブ」 | 9行 | 2位 | 80点 |
「第四の椅子」 | 3行 | 6位 | 64点 |
平均72点 | 91行 | 合計 | 580.6点 |
行数と合計の行数が合わないのは、他の選者が1作ずつ切り離して論評しているのと違って、同じ段落に複数の作品を取り上げるなど、文章にも意を用いているからで、吉川氏の選評に限っては原文をそのまま引いた方が良さそうです。
吉川氏の選評に割り込むように置かれている三上氏の選評は、まず各作品について本当に簡単に評し、最後に点線で仕切って7行、ここに、前回書いたように総評らしき記述もあるのですが、今は「影繪双紙」の評ととるべきだと思い直しています。
作品名 | 行数 | 順位 | 点数 |
---|---|---|---|
「戀慕夜叉」 | 2行 | 8位 | 53点 |
「めぐる仲仙道」 | 2行 | 7位 | 59点 |
「南蠻緋玉双紙」 | 3行 | 6位 | 60点 |
「第四の椅子」 | 2行 | 5位 | 63点 |
「フグクラブ」 | 2行 | 4位 | 64点 |
「不戰時代」 | 2行 | 3位 | 70点 |
「劍難時代」 | 2行 | 2位 | 72点 |
「影繪双紙」 | 8行 | 1位 | 80点 |
平均65点 | 23行 | 合計 | 521点 |
評価の低いものから順に挙げています。
さて、選者ごとに見ても、残念ながら各選者の平均点を超える点を山本氏は誰からも与えられていないのでした。(以下続稿)