瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

講談社別館の幽霊(1)

 8月13日付「丸山昭『まんがのカンヅメ』(1)」に、小学館文庫版トキワ荘実録――手塚治虫と漫画家たちの青春――の初版第一刷・第二刷を見て、単行本は未見だと書きました。所蔵する図書館に寄る機会はあったのですが書庫請求するのが面倒で、そのままにしていましたが、先日立ち寄った別の図書館の開架にあったのを手にして、借りて帰って来ました。
丸山昭『まんがのカンヅメ――手塚治虫トキワ荘の仲間たち一九九三年三月二五日第一刷・定価1,262円・ほるぷ出版・207頁・B6判上製本*1
 比較をして見ると、文庫版はかなり変わっています。よって比較はかなり手間が掛かりそうなので後回しにして、まず最初に文庫版で読んだときに注意していた記述について、確認して置くこととします。
 単行本109〜181頁「2章 実録トキワ荘」文庫版115〜192頁「第二章 実録トキワ荘」の、140頁7行め〜154頁4行め「石ノ森・赤塚組」文庫版151〜163頁「4、石ノ森・赤塚組」の中程、単行本は146頁6行めに4字下げ2行取りでゴシック体の見出し「講談社別館は怪談のカンヅメ」とあって、以下本文は6行めから147頁5行めまでです。文庫版の当該本文は156頁2行めから17行めまで、但し見出しはその前の段落(155頁14行め〜156頁1行め=単行本146頁2〜5行め)の前、155頁13行めにゴシック体で若干大きく「講談社別館の怪談」とあり、その前が1行空白になっています。
 ここでは単行本の「講談社別館は怪談のカンヅメ」の本文を抜いて置きましょう。改行箇所は単行本を「/」で、文庫版を「|」で示し、また異同箇所は灰色太字にして文庫版の形を注に示しました。

 この別館は講談社本社の裏山にあるまことに豪華な二階建ての洋風建築で、ある財|閥の/別邸を買い取ったものなんだそうです。外国映画で見るような庭にベランダ、壁|に這うつ/たの緑など、いかにも由緒ありげです。内装もりっぱ、マントルピースつき|の部屋などが/いくつかあって、終戦後、極東裁判*2のキーナン判事(知ってい|る人がどれだけいますかね)*3/の宿舎に使われていたものだといいます。洋室と和室、|大小合わせて二〇室くらいあった/でしょうか。泊まり込みで仕事をしなければならな|い企画ものや、長時間の会議などにも/使いましたが、作家のカンヅメにはもってこい|の施設でした。
 ただ、ろうか*4の奥に隠し階段があって、それをあがると隔離された畳敷きの一室があ|り/まず。カンヅメになった手塚先生が、夜中に女の泣き声がするとか、壁に人の形を|したシ/【146】ミが浮き出るとか、ぬれた足で歩く音がするとか、ありとあらゆる怪談を捏造*5|してまんが/家仲間に言いふらしたのがこの部屋です。たしかに、夜は管理人のほか誰|もいなくなりま/すから、さびしいことはさびしい。無人の洋館というのは不気味です|から、怪談にはうって/つけの道具だてです。手塚先生はいたずら半分でやったことな|のに、他のまんが家たちが/この怪談を理由にして、別館のカンヅメをいやがるんで困|ったものでした。


 丸山氏は「捏造」扱いしているこの怪談ですが、講談社の現役社員はこういう話が存在したことも認識していないようです。HP「講談社BOOK倶楽部」の講談社創業100周年記念企画「この1冊!」の、49冊目「月刊 現代 2006年10月号」は、青木肇(学芸局翻訳グループ 41歳 男)の「幽霊屋敷の巨人」という回想(2011.04.15)ですが、幽霊の話がある訳ではなく「幽霊屋敷のような古い洋館」と云うので、取り壊される直前に立花隆(1940.5.28生)が泊まり込んだとき、立花氏の求める資料を準備して持って行くのだが、

‥‥。問題は深夜、1人で館に行くのが怖い、ということだった。冗談ではなく怖い。坂を上がると、暗闇の中にひっそりと佇む古ぼけた洋館。「かつては座敷牢だった」という、むき出しの窓に鉄格子の嵌められた地下室。まるで江戸川乱歩横溝正史の世界である。

としていて「怖い」理由は「幽霊」が出るからではなく「幽霊屋敷のような」見た目に限定されているのでした。(以下続稿)

*1:2016年1月3日追記】判型を記載し忘れていたので補った。

*2:文庫版は「極東国際軍事裁判

*3:文庫版は括弧が全角。

*4:文庫版「廊下」。

*5:ルビ「ねつぞう」。