瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

事故車の怪(1)

 11月15日付「今野圓輔『幽霊のはなし』(06)」に引いた、『幽霊のはなし』64頁10〜15行めの「首だけの幽霊話」であるが、私は人から聞いた覚えはないのだが、あちこちで目にした記憶がある。今野氏が記述する話は「人身事故をおこした乗用車のボンネットに、血だらけのなま首だけが、ひょいとのっかるという話である。ただみたいな値段で、つぎつぎに転売され、持ち主はかわっても、その自動車を運転するとでるという。」と云うものであるが、例によってまづ単行本『現代民話考|Ⅲ| 偽汽車・船・自動車の笑いと怪談』(1985年11月25日第1刷発行・定価1,800円・立風書房・384頁・四六判上製本)207〜381頁「第三章 自動車、列車などの笑いと怪談」217〜322頁4行め「一、幽霊」を参照するに、事故車に怪異が発生すると云う話は307頁6行め〜310頁6行め「中古車の怪」にまとめられていることが分かった。ちくま文庫版『現代民話考[3]偽汽車・船・自動車の笑いと怪談』 (二〇〇三年六月十日第一刷発行・定価1300円・筑摩書房・444頁)では233〜440頁「第三章 自動車、列車などの笑いと怪談」243〜375頁4行め「一 幽霊」に、359頁2行め〜362頁6行めにやはり「中古車の怪」として、同じ6話が挙がる。
 ところが、「中古車の怪」と題するからには、――(安い)中古車を買ったら、幽霊が出たり、事故に巻き込まれたりして、実は死亡事故を起こし(て安く売りに出されてい)た事故車だったことが分かった、と云うパターンであるべきなのだが、事故車が中古車として転売されて、と云う前提ではない話が2つ含まれている。
 まづ、6話中3話め、単行本308頁10〜16行め・文庫版360頁8〜14行め*1

青森県十和田市*2。昭和四十六年八月十三日深夜のこと。さる十一日夜、十和田市三|本木北平の/国道を酒に酔って歩いていた四十三歳の男の人が東京の大学生の車には|ねられ死亡した。十和/田署では大学生を逮捕、車を中庭の留置場わきに置いた。と|ころが盆の十三日を待つかのよう/に午前一時近くなって、クラクションが「パーパ|ー」と鳴り始め、高い連続音を出した。警察/官が飛び出し止めたが、浮かばれない|被害者が新盆で“ウラメシヤ……”とやったのではと、/もっぱらのうわさだった。
   出典・「東奥日報」昭和四十六年八月十五日付。


 これでは事故を起こしたばかりの車であって「中古車」ではない。――今野氏の紹介する「首だけの幽霊話」は、「青森県」で「昭和四十六年(一九七一年)ごろに話題になっていた」「地もとの新聞にも報道された有名な幽霊だとのこと」だから、この話と時期と場所が重なるところが注意される。
 もう1話は、6話中2話め、単行本308頁3〜9行め・文庫版359頁15行め〜360頁7行め、

青森県青森市。昭和四十三年の話。勤めていたハイヤー会社の車が西平内若い女|を轢いて即/死させてしまった。午後九時頃その車が会社に戻って来た。運転者の一|人が車を洗い、車輪に/からまっていた女の髪などまとめ、裏に埋めたそうだ。まも|なく家へ帰ろうとすると背中がぞ/くぞくし、バイクのエンジンがなかなかかからな|かった。翌日も、三日目の夜、やはり家へ帰/ろうとバイクにまたがると「おらばも、|乗せでけえ」と女の声がした。ふりむいても誰もいな/い。二、三日続いたがその後|そんなことはなくなった*3
   話者・甲田中学校用務員。出典・同右。


 「出典・同右」と云うのは、この話の直前、1話めの「出典・北彰介編『青森県の怪談』(青森県児童文学研究会)」を指す。甲田中学校は青森市立。例によって刊年が入っていないが昭和47年(1972)刊、翌年改版されて津軽書房から刊行されている。それはともかく、これだと中古車でないばかりか、――事故車を洗浄した、事故を起こした人とは別の運転手に霊が取り憑いた(らしい)話で、事故を起こした車に怪異が発生した訳でもないのである。事故車を媒介して、事故とは無関係の人物に怪異が起こった、とは云えようが。例によって『現代民話考』の分類が適当ではない例で、これら2話もひっくるめて1つの名称を与えるとすれば「中古車の怪」ではなく「事故車の怪」と云うことになろう。(以下続稿)

*1:冒頭の「○」が文庫版では「*」になっている。単行本・文庫版ともに2行めから1字下げになっているが詰めた。改行位置は単行本「/」文庫版「|」で示す。

*2:単行本ルビ「とわだ」。

*3:単行本ではこの文の読点が何故か半角になっていた。