瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

丸山昭『まんがのカンヅメ』(12)

・単行本(5)挿絵
 収録される写真については、前回1月9日付(11)まででほぼ確認を済ませたので、次に図版について単行本と文庫版を比較して見よう。コラムに挿入されている図版については後述する。
 1月3日付(05)に引いたように、単行本の「挿絵」=文庫版の「本文カット」は、トリノ・まさるが担当している。
・9頁(頁付なし)中扉、上部に縦組みで標題は教科書体、腋に明朝体で小さく副題。下部に明朝体で小さく「丸山 昭」。その間にイラストがあり、ゴミバケツから蓋を持ち上げて顔を見せる丸山氏、トラ猫が気付いて吃驚している。周囲には漫画の原稿が散らばり、捩られたものもある。これが文庫版では9頁(頁付なし)「手塚番日記」の扉に入っている。
・15頁(頁付なし)「1章 手塚番日記」の扉には、足から炎を噴射して原稿が舞い飛ぶ中を飛び回る、鉄腕アトムのような癖毛のある手塚治虫を、背広の丸山氏が捕まえようとするイラスト。文庫版では24頁。手塚氏と手塚番編集者の関係を示すイラストとして、どこにあってもおかしくはないが、文庫版でも「手塚番日記」の扉に配するべきだったのではないか。
・29頁のイラストは28頁の本文に対応している。25〜30頁「ひと月目からこの始末―3」の節(文庫版24〜29頁「ひと月目からこの始末」)の後半、27頁3行め〜「徹夜の張込み」(文庫版27頁4行め〜「張り込み」)、行方不明になった手塚氏の所在を知るために、28頁4〜5行め(文庫版28頁4〜6行め)、

‥‥、/並木ハウスに張*1込むことにしました。寒さもつのる頃*2だったので、|下宿に帰って着られる/だけ着込み、ウイスキー*3のポケットびんも忘れずに持ってい|く。


 「/」は単行本の改行箇所、「|」は文庫版の改行箇所、異同のある箇所は灰色の太字にして注に文庫版での形を示した。
 そして、描かれているのは8〜13行め(文庫版9〜15行め)、

 夜はふける*4。一人、二人と帰宅する人がいるうちは刑事気分で気も紛れるけれど、|都電/の終車も通り、夜中も過ぎて最後の人が部屋に入った後は、人の気配はまったく|絶えてし/まう。寒さがじんわりと覆いかぶさり、耳や鼻の先をつねる。下からはコン|クリートの冷/たさも尻にかみつく。これはキツい。息を殺してじっとしているなん|て、そんなに続くも/んじゃないことがよく分かった。ポケットびんくらいのウイスキー*5なんか、ちっとも頼り/にならない。この寒さとウイスキー*6のガブ飲みこそが、後年|*7を悩ます痔の原因になった/のであります。


 座り込んで、ポケットびんのウイスキーを注ぐ丸山氏で、コートを羽織っていますがその下がジャケットではなくワイシャツにネクタイなのが少々奇怪。無精鬚でむすっとした表情で刑事気分は出ている。背後の壁に影が映り、背景に浮かぶ○に、丸山氏が担当していた「リボンの騎士」のキラキラした主人公が夢想(?)されている。
 これが文庫版では69頁に入っている。68頁の最後の3行(13〜15行め、単行本68頁2〜4行め)には、

 話をもどして、このペン入れのとき、先生は終始無口、したがって座り込んでいる|我々/も話しかけない。しんしんと夜は更けて、聞こえるのは快いレコード音楽がカリ|カリとい/うペンの走る音だけ。

とあるので、場面として全く合わない訳ではないが、流石に酒を飲みながら待ったりはしないからやはり合わないというべきだろう。
 以下、一々検証していくつもりであるが、以上の例からも分かるように、単行本では「挿絵」として本文に合わせて用意されていたトリノ氏のイラストが、文庫版では文字通り「本文カット」扱いされているのである。これは文庫版の改悪と云うべきであろう。(以下続稿)

*1:文庫版「り」あり。

*2:文庫版「寒の最中」

*3:文庫版「ウィスキー」。

*4:文庫版「更ける」。

*5:文庫版「ウィスキー」。

*6:文庫版「ウィスキー」。

*7:文庫版「ぼく」。