瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

じゅんいち君道路(1)

 トランプ次期アメリカ合衆国大統領は、2016年11月12日付「男の甲斐性」に述べた期待を裏切らない絶好調ぶりである。twitterで恫喝すれば自国の企業も日本の企業も尻尾を振って来るのだから、これほど簡単なことはない。唯々諾々とする経営陣が情けないと思うのだが、株価もあの通りなんだし、全く世の中、ちょろいものである。まぁ私は翻弄される世の中の末端で全く為す術もなく漂っているような者だから、別に今更、どうなろうとも思っていないのではあるが。いくら言葉を尽くして説明しても、事実誤認に基づいた、受けそうな印象を語っている記事を凌ぐことはない。まぁ、くどいから仕方がないんだけれども。

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 1月6日付「松山ひろし『真夜中の都市伝説』(4)」の最後に紹介した、松山ひろし『壁女』の「参考文献一覧」の末尾近くに、小池壮彦『怪奇探偵の実録事件ファイル2』が載っているのを見て、これは2016年12月29日付「松山ひろし『真夜中の都市伝説』(3)」に示した松山ひろし『壁女』の最後、「エピローグ じゅんいち君道路」の典拠だろうと思って、比べて見た。
 私は10年くらい神奈川県民だった時期があるのだけれども、川崎市横浜市にしか住んだことがなく、丹沢に何度か山登りに出掛けたことがあるが、知った人もいなかったので他に出掛ける用事もなく、神奈川県西部のことは他の地方より多少知っているという程度で「じゅんいち君道路」のことも知らなかった。
 まず“都市伝説”の方から見て置こう。松山ひろし『壁女』209頁2〜7行め、改行位置を「/」(文庫版『怖すぎる現代伝説』242頁2〜8行め、改行位置「|」)で示す。

 神奈川県秦野市、国道二四六号線の善波峠付近は、かつて「じゅんいち君道路」と|呼ば/れていた。*1
 噂によると、昔、この道路で「じゅんいち」という名前の子どもが事故にあい死ん|でし/まったらしい。ところが、それからこの道路では奇妙な事故が続出するように|なった。な/ぜか「じゅんいち」という名前の人物が、立て続けに事故にあうように|なったのである。
 
 ある日のこと。


 以下「じゅんじ」という名前の青年が自動車で走行中、小さな男の子の幽霊(?)に命を取られそうになるが、210頁4行め(文庫版243頁4行め)「なんだ『じゅんじ』か。せっかく友だちが増えると思ったのに……」と言われて助かった、というオチの話の紹介になる。210頁5〜9行め(文庫版243頁5〜9行め)、

 その後も、この道路では、小さな男の子の幽霊が何度も目撃されるようになった。
 そこで、男の子の霊を供養する意味も込めて、「もう死なないで じゅんいち」と|いう/看板が掲げられることになった。
 この看板が立てられて以後、「じゅんいち」という名の人が事故にあうことはなく|なっ/たそうだ。


 なお、「善波峠」は秦野市名古木と伊勢原市善波の境界で、事故があったのは伊勢原市側である。実際に事故死した「準一」君が「秦野市」在住だったことから勘違いしたのだろう。
 後述するように、この話のvariationは多く、ネット上にも大量に存在しているのだが、小池壮彦『怪奇探偵の実録事件ファイル2』の121〜220頁「第二章 怪奇探偵、幽霊伝説を追う」として4節収録されるうちの2節め、154〜175頁「少年霊が事故をいざなう「じゅんいち君道路」の謎」では、非常にあっさりした内容になっている。2項め、158頁9行め〜161頁16行め「同じ名前の少年が連続死?」の冒頭に、小池氏が聞いた話が紹介されている。但し、誰から聞いたかは示されていない。158頁10行め〜159頁8行め、

 私が「じゅんいち君道路」を訪ねたのは、平成八年(一九九六年)夏だった。そこで/かつて、三人の少年が、続けざまに事故死したという話を聞いたからである。
 死者の名前がいずれも「じゅんいち」だったことから、現場には「もう死なないで じ/ゅんいち」と書いた看板が掲げられたという。なぜ「じゅんいち君」ばかりが事故に遭う/のかというと、最初にそこで事故死した「じゅんいち君」の呪いだというのである。
 よくある噂話に過ぎず、わざわざ現地に出向くこともなかろう、と思っていた。しかし、【158】この噂は、あながちでたらめではなく、問題の看板は、確かに実在した。そのことを私は/『池田貴族 戦慄の心霊写真集』(竹書房)という本に載る写真で知った。*2
 この本に、看板があったころの現場写真が載っている。それを見ると、国道246号線/の善波峠付近の街路灯に「もう死なないで 準一」と書いた看板が、確かに設置されてい/たことがわかる。大きさは三メートルほどであろうか。看板というより、一種の慰霊塔で/あったと思われる。三人の「じゅんいち君」がそこで死んだという話はともかく、少なく/とも、一人の「準一君」がそこで事故死したのは事実なのだろう。すると、「じゅんいち/君道路」の怪談は、根も葉もない噂のたぐいではなかったと見なければならない。


 この『怪奇探偵の実録事件ファイル2』については、2011年10月13日付「七人坊主(1)」以下に、15〜119頁「第一章 怪奇探偵、怪奇事件の謎に挑む」の1項め、16〜59頁「謎の人骨火葬事件は七人坊主の祟りか?」について批判的に検討したが、この「じゅんいち君道路」のレポートは、よく調べてあると思う。(以下続稿)

*1:ルビ「はだの・ぜんば/」文庫版「はたの・ぜんば/」。

*2:二重鍵括弧は半角。