瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

今野圓輔『幽霊のはなし』(13)

 一昨日からの続きで、第三章の3節めについて。
 128頁、章題と同じ大きさの明朝体、3行取り1字下げで「お盆にはかならず“あの世”から*1」とあり、さらに1行空けて、3行取り2字下げで一回り大きなゴシック体の項目名。要領はこれまでに同じ。
  子どものボンさまの足あとが(145頁2行め〜)
    イラスト、147頁左上
    145頁5行め「 さきに紹介した『三州横山話』には、‥‥*2
    146頁1〜3行め、

‥‥、長野県上伊那郡あたりの例をみると、最上孝敬氏のすぐれた著書『黒河内民俗誌』に/は、お盆の精霊むかえの作法が、くわしく報告されている。すこし長いが、その「祖霊と盆行事」/の項から転載させていただいて、読んでもらうことにしよう。*3


    146頁4行め〜147頁4行めは二重鍵括弧で括られた引用。
    147頁7〜9行め、

 青森県八戸市にあった、奥南新報という/新聞昭和15年9月15日)の記事の要約であ/る。


    147頁10行め〜148頁10行めは二重鍵括弧で括られた引用。
  死者と生者とのパーティー*4(149頁5行め〜)
    写真、149頁左上「地 獄 の 絵(地獄草紙より)」下
       151頁左上「舞台で上演される怪談物」下
    151頁8行めからこの項の末尾(152頁6行め)まで、

 毎年夏になると、きまって怪談*5がもてはやされるのは、こんなふ/うに、みんなが霊魂とごく親しくなるシーズンだからにちがいな/い。夏に怪談がもてはやされる流行は、だんだんひどくなってくる/ように感じられるが、これは、情報化時代とか、マス・コミニュケ/ーションの影響というよりは、物質文明が発達しすぎたせいではな/いかと思う。
 とにかく、夏になると、テレビジョンはもちろん、舞台でも映画/でもラジオでも、週刊雑誌でも、日本のものだけではたりなくて、【151】フランケンシュタインや吸血鬼ドラキュラなどの古い映画まで、外国から買って上映している。*6
 でも、こんな流行は、そんなに昔からのことではなかった。夏になると、なぜ怪談がはやるのか/という質問の答えとして、冷房用のクーラーがいまのように普及していなかった大都会では、「暑/い夏に、ぞっとして涼しくなるために、怪談がはやるのだ」などという説明が、もっとも多かった。*7
 しかし、大都会でクーラーが非常に普及した現在でも、夏の怪談物は、へるどころか、むしろさ/かんにさえなってきているようなので、これはやはり、お盆の影響が強かったと思うほかはない。*8

という見解が示される。当て推量の説明に対し、長らくこの分野に感心を持ち続けている人が表明した疑義として注意されるが、このままでは今野氏の印象を述べたに過ぎないので、もう少し具体的な増加のデータが欲しいところではある。
  生きている魂に盆魚*9(152頁7行め〜156頁13行め)
    イラスト、154頁上
    写真、154頁左上、左下
 この2つの写真の下にまとめて「オーストリアのセント・ヨハン・ポンガオにあわられる鬼たち(上) /秋田県男鹿半島にあらわれるナマハゲの鬼たち(下)」とのキャプションがあるが、本文中にオーストリアの祭りやナマハゲに関して特に説明していない。写真を見て似ていることを悟れ、という訳である。
    ここでは人名を列挙している辺りを抜いて置く。154頁8行め〜155頁5行め、

 ボンということばは、梵語のウランバナからでたのであり、ホ/トケは、仏教の仏だという語源説が普及しているが、お茶や食物/をはこぶひらたい食器にもオボンがあり、ボンもホトケも、もと/は神霊に供物をもる道具――その神聖な道具でまつられる神霊を/意味する国語だったのではないかと、柳田國男先生はいっている。*10
 文化庁ができる前、文部省の文化財保護委員会*11の会合で、人類/学者の岡正雄先生から、ヨーロッパの祭りの話を聞いたことがあ/った。キリスト教が普及するまえからあったと思われるヨーロッ【154】パの古い祭りをしらべてみると、日本の祭りや年中行事と、非常に似ているのがあまり多くてびっ/くりしたと、春の予祝行事、秋の収穫祭や、冬の火祭りなど、たくさんの実例をあげての比較だった。*12
 ところが、関口武博士が東京新聞に連載していた「科学歳時記」の「お化けと提燈」(昭和46年10月30日)を読むと、アメリカのハロウィンという祭りがまた、こっちのお盆とそっくりなので、これ/にもまたおどろいてしまった記憶がある。*13


 文化財保護委員会は昭和25年(1950)8月施行の文化財保護法に基づいて設置された。昭和43年(1968)6月設置の文化庁の前身。岡正雄(1898.6.5〜1982.12.5)は昭和40年(1965)に文化財保護委員会専門審議会民俗資料部会長を委嘱されている。関口武(1917.8.13〜1997)は気候・自然地理学者。――この書き方からも分かるように、当時、ハロウィンなど全く行われていなかった。今や除夜の鐘に苦情が出て、先祖代々の墓を捨てて樹木葬ということになって、40年の時代を感じる。
 柳田國男(1875.7.31〜1962.8.8)の説は、例の、庚申信仰は日本固有だと唱えたのと同じ傾向の発言だろう。庚申信仰のことは少々調べたことがあって、その頃から柳田氏と、柳田説を金科玉条のようにして、柳田説に合うような「採集」を心掛けていた民俗学徒の傾向に、どうも不信の念を抱いている*14。しかし、それに代わる説に依拠したいとも、自ら樹立しようとも思わないから、私はどうしても民俗学には入って行けないのである。(以下続稿)

*1:ルビ「ぼん」。

*2:ルビ「しようかい・さんしゆうよこやまばなし」。

*3:ルビ「かみい な ぐん/ぼん・しようりよう・ぎようじ/てんさい」。

*4:ルビ「し しや・せいじや」。

*5:ルビ「かいだん」。

*6:ルビ「きゆうけつき・じようえい」。」

*7:ルビ「かいだん/れいぼうよう・ふ きゆう/」。

*8:ルビ「ふ きゆう/えいきよう」。

*9:ルビ「たましい」。

*10:ルビ「ぼんご/ぶつきよう・ご げん・ふ きゆう//しんれい・く もつ・しんせい/」。

*11:ルビ「ほ ご い いんかい」。

*12:ルビ「ねんじゆうぎようじ・よ しゆく」。

*13:ルビ「れんさい・さいじ き・ば・ちようちん//」。

*14:この辺りのことは2011年3月22日付「幽霊と妖怪」に少し述べた。――今、柳田説は金科玉条ではないだろうが、しかしそれに代わる私などには着いていけないような説が、同じ位置にあるのだろうと思ってしまうのである。