・鈴木則文監督『ドカベン』(10)
一昨日までオープニングにクレジットされる出演者について見て来たが、まづはこれに続く、岩鬼正美(高品正広)と他の運動部員たちとの乱闘シーンについて。
ここで私が注目したのは、――黒帯の空手部員が掛け声とともに仁王立ちになった岩鬼の股間を打つ。見ていた女子生徒2人が手を口に当てて「きゃーっ」と悲鳴を上げるのだが、次に「あいたたたたたたた」と倒れ込んだのは空手部員の方。岩鬼が得意気に「へへへへ」と笑ったところでカメラは股間に移動するのだが、そこがボィ〜ンと云う音とともに膨らむのである。と、別の女子生徒の顔を正面から捉えて、その女子*1は両手を頬に当てて「えっちぃ!」と叫ぶのだが、これは『タモリ倶楽部』のコーナー「空耳アワー」でよく使われている、お色気シーンのアレと同じではないか。方法が同じなのかどうか、気になる*2。分かったところでどうもしないけれども。
原作の同じ場面(文庫版①5頁)には股間アップはない。鈴木監督のサービスである。
この岩鬼と運動部員たちの乱闘の最中に、転校初日の山田が駆け込んで来て、と云う展開は同じだが、原作ではここに生徒会長の大河内と副会長の朝日奈が騒ぎを鎮めに現れるが、映画では山田を殴ろうと振り下ろした岩鬼の腕が地面にめり込んで、抜けなくなっているうちに始業ベルが鳴って、岩鬼を置き去りにして皆校舎に駆け込むことになっている。
ところで映画では、山田は「私立明訓高等学校」に転校して来るのだが、原作(文庫版①35頁5コマめ)では私立「鷹丘中」学校で*3、山田は「初代理事」長「堂本源‥‥」の銅像を感謝を込めて毎日磨く(文庫版①34頁)ことになっている。何らかの事情で前の学校にいづらくなった山田を、この堂本理事長が転校させたらしいのだけれども、細かい事情は描かれていなかった(と思う)。映画ではこうした転校を巡る語られざる事情は省かれている。――それにしても、貧乏な山田が公立ではなく、私立中学から私立高校に進学する、と云う流れが以前から疑問だった。両親が事故死するまではそれなりに裕福だったのだろうか。
さて、教室で山田は佐藤蛾次郎扮する教師*4に転校生として紹介され、続いて同じ佐藤蛾次郎の現代国語の授業の場面になるから、佐藤蛾次郎が山田たちの担任かつ国語教諭と云うことになる。サングラスに蝶ネクタイ、チェックのジャケットを着て、朝日奈麗子にセクハラまがいのことをする。
ここで注意されるのは、佐藤蛾次郎が生徒を2人「こちら、生徒会長の大河内君」と大河内カズオ(小松陽太郎)そして「こちらはね、ミス明訓、朝日奈麗子ちゃん」と紹介することで、いったい彼等は何年生だろうか、と云う興味が湧く。――生徒会長と副会長がいるから1年生ではない。
授業では『現代国語』の教科書の島崎藤村「初恋」を朝比奈麗子(山本由香利)が朗読する。黒板を見るに縦書きで、右端に「四月 十五日(金)」、右寄りに「近代詩/ 島崎藤村/ (一八七二〜一九五六)」、中央やや左に「初 恋」振仮名「はつ こい」と読める。島崎藤村(1872.二.十七〜1943.8.22)の没年がおかしい。明瞭に見えている訳ではないが「一九四三」とは読めない。
この映画は昭和52年(1977)現在で作られており、すなわち映画の後半は公開後、未来のことになっている。昭和52年(1977)4月15日は確かに金曜日である。
それはともかく、山田が初めに自己紹介する場面で、詰襟の向かって右に校章、左に学年章が着いているが、学年章は「ⅡA」と読める。高校2年生の4月に生徒会長・副会長になっているのは妙で、普通高校3年生だろうと思うのだが、この後、夏の県大会で野球部が敗退した後に、山田・岩鬼・殿馬・大河内らが入部して、徳川家康新監督(水島新司)の下、甲子園を目指すという展開になるから、やはりここは高校3年生ではなく高校2年生でないといけない。すなわち山田たちの学年は昭和35年度の生れと云うことになるのだが、役者の年齢は、8月31日付(04)や9月1日付(05)に見たように、物凄いことになっている。(以下続稿)