・張華『博物志』の「千日酒」(2)
昨日の続きで、張華『博物志』卷十「雜說下」全14条のうち11条めに載る「千日酒」について、1月29日付(11)と同じ要領で変則的に書き下して見る。
昔、劉玄石、中山ノ酒家ニ於テ酒ヲ酤フ。酒家千日酒ヲ與フ。其の節度を言ふを忘ル。歸テ家ニ至レハ當ニ醉フ。而シテ*1家人知ラ不、以て死セリト為す也、權ニ之を葬フル。酒家千日滿ルヲ計テ、乃チ憶フ、玄石前ニ來テ酒ヲ酤フ。醉醒ニ向ン耳*2。往テ之ヲ視レハ云フ、玄石亡シ來テ三年、已ニ葬ルト。是ニ於て棺ヲ開ク。醉始テ醒ム。俗ニ云、玄石カ飲酒、一醉千日。
次に1月30日付(12)と同じ要領で、書き下し文にして見る。
昔、劉玄石、中山の酒家に於いて酒を酤ふ。酒家 千日酒を與ふ。其の節度を言ふを忘る。歸りて家に至れば當に醉ふ。而して家人知らず、以て死せりと為すや、權に之を葬ふる。酒家 千日の滿つるを計りて、乃ち憶ふ「玄石前に來りて酒を酤ふ。醉、醒むるに向はんのみ」。往きて之を視れば、云ふ「玄石亡し來て三年、已に葬る」と。是に於いて棺を開く。醉、始めて醒む。俗に云ふ「玄石が飲酒、一醉 千日」。
話の大筋は『搜神記』と同じである。「中山」と云う場所と「千日酒」そして「劉玄石」と云う主人公は一致する。しかし「酒家」に名前なく、『搜神記』のような会話もない。酔いが醒めた玄石が間の抜けたことを言って笑われる、と云う場面もなければ、さらに玄石を掘り出した人々が玄石の発する酒気に当たって3ヶ月眠り込んだ、と云うオチの駄目押しもない。
しかしこの劉玄石なる人物、China史上、いや世界史上唯一人、千日酒を飲んだ者としてのみ、その名を止めているらしいのである。いや、そこに我等が神道又も加わる訳だが、実際に(?)酔って3年眠ったのは劉玄石唯一人である。(以下続稿)