・岩波文庫32-546-1『氷島の漁夫』(2)
昨日の続きで吉氷清「訳者あとがき」のうち、やはり第2刷での訂正と思われる箇所を見て置こう。
この「訳者あとがき」は○が附された8項に分かれているが、その最後の項(302頁9行め〜304頁8行め)は、302頁2〜10行め「固有名詞の発音」についてで、昭和36年(1961)の「前訳」では「故山内義雄先生の御指示に従い、原則として吉江博士の旧訳のものを踏襲して/おくということで、別に深く詮索することもな」かったのであるが、14〜15行め「先年渡仏の際、パンボルを訪れ/ることができたので、手当たり次第の人々に」尋ね、302頁9行め「女主人公 Gaud の発音」が、12行め「語尾子音は読まないのが普通」の「正規のフランス語読み」である、14行め「ゴー」ではなく、吉江氏の訳の通り「ゴード」であることを確認する。
その次の段落(303頁7〜12行め)に修正がある。すなわち、第1刷、
そこで私は大安心をしたが、引きつづき私はもう一つ、この土地の固有名詞の読みで有益な教/示を土地の人々から教えられたことをここに報告しておこう。それは、このパンボルの波止場か/ら同名の湾を距てて、真北の間近の対岸に一部の見えている、この小説ではイヴォーヌ婆さんや、/シルヴェストルの住んでいたことになっている馴染の Ploubazlanec 村の発音は、吉江先生が旧/訳でお示し下さったようなzを読む音ではなく、[plubalanek](「プルバラネック」)であったとい/うことである。
となっていたが、第3刷は次のようになっている。異同を仮に太字にして示す。
そこで私は大安心をしたが、引きつづき私はもう一つ、この土地の固有名詞の読みで有益な教/示を土地の人々から得たことをここに報告しておこう。それは、このパンボルの波止場から同名/の湾を距てて、真北の間近の対岸に一部の見えている、この小説ではイヴォーヌ婆さんや、シル/ヴェストルの住んでいたことになっている馴染の Ploubazlanec 村の発音は、吉江先生が旧訳で/お示し下さったように、やはりzを読む音ではなく、[plubalanek](「プルバラネック」)であった/ということである。
修正は2箇所、前者は「教示を‥‥教えられた」は重言でおかしいし、後者は、第3刷では誤りようがないが、第1刷の書き方では「吉江先生が旧訳でお示し下さった」のが「zを読む音」であったようにも読める。
いづれ、吉江氏の「旧訳」についても確認するつもりである。(以下続稿)