瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

中学時代のノート(06)

・昭和56年頃に聞いた怪談ノート(3)前篇② 怪談(その一)見たな

 昨日の続き。2頁15行めは空白。16行め~4頁4行めまで。

 中八木の方(明石市、先生は子供のころ、ここに住んでい/た)で、墓あらしが出たという話。
 
 中八木の方で、夜中にカランコロンってげたをはいて、そ/【2】れで髪の毛はボサボサに生えてて、そんで、いつも下の方を/むいて、白い服着て歩いていく男の人があった。それで子供/はこわいんで、もうげたの音のきこえる前にふとんにもぐ/って、それでゲタの音が聞こえるとがたガタふるえてい/た。寝小便をした子もいた。
 それであるオッチャン(おじさん)が「誰やろ(だろう)」/と思って、ある夜中、その男の人をまちかまえていると、
  カランコロンカランコロン
とゲタの音がする。みてみると、髪の毛がボサボサ(又/は長くたれていただったかもしれない)で顔は下向いて、白/い服を来た男の人が、ゲタをならしながら、前を通り/すぎて行った。
「どこ行くんやろ」と、そのオッチャンはあとからそっとつ/いていくと、村はづれの墓地に入って、(新しい)墓をほ/りおこして(手で)、かんおけから、死骸を出して、ムシャ/ムシャとたべている。そのオッチャンは、「こわいものを見た」/と、逃げだそうと、草のかげにかくれていたのだが、逃げ/ようとして、まちがって、
「ガサッ」と音をたててしまった。すると、男の人は、こち/【3】らをジロッとにらんで、
「見ィたァなァ」
と行っておいかけてきた。それでそのオッチャンも逃げ/たんやけど、つかまったと思う?


 断っていなかったが本文は全て油性ボールペンで書いてある。下書きせずにいきなり書いているので、後で( )に補足を入れたり、展開や文章が捻れたのを妙な具合に辻褄を合わせたりしている。修正液のようなものは使っていなかったから、誤字に強引に重ね書きしたところもある。更に、暫く経ってから読み直した際の、鉛筆書きの書入れも(ここには出て来ないが)ある。
 校訂案。文意が通るように直したいところだが、原型を止めつつ漢字を加減した。

 中八木の方(明石市、先生は子供の頃、ここに住んでいた)で、墓荒しが出たという話。
 
 中八木の方で、夜中にカランコロンって下駄を履いて、それで髪の毛はボサボサに生えてて、そんで、いつも下の方を向いて、白い服着て歩いていく男の人があった。それで子供はこわいんで、もう下駄の音の聞こえる前に布団に潜って、それで下駄の音が聞こえるとガタガタ震えていた。寝小便をした子もいた。
 それであるオッチャン(おじさん)が「誰やろ(だろう)」と思って、ある夜中、その男の人を待ち構えていると、
  カランコロンカランコロン
と下駄の音がする。見てみると、髪の毛がボサボサ(または長く垂れていた、だったかもしれない)で顔は下向いて、白い服を着た男の人が、下駄を鳴らしながら、前を通り過ぎて行った。
「どこ行くんやろ」と、そのオッチャンは後からそっと着いて行くと、村外れの墓地に入って、(新しい)墓を手で掘り起こして、棺桶から、死骸を出して、ムシャムシャと食べている。そのオッチャンは、「こわいものを見た」と、逃げ出そうと、草の陰に隠れていたのだが、逃げようとして、間違って、
「ガサッ」と音を立ててしまった。すると、男の人は、こちらをジロッと睨んで、
「見ィたァなァ」
と言って追い掛けて来た。それでそのオッチャンも逃げたんやけど、捕まったと思う?


 典型的な「見たな」の怪談である。
 中八木は明石市大久保町八木、山陽電鉄中八木駅がある。同じ市内だけれども丘陵地を造成した新興住宅地の住民には縁がなく、何kmも離れていないのだが行ったことがない。公共交通機関も市バスと、たまに国鉄に乗るくらいで、山陽電鉄には乗ったことがなかった(後年、高校の遠足で乗った)。
 当時、新興住宅地に下駄を履いている人なんかいなかったから、随分昔の話のように感じた。「白い服」も、もちろん和服でイメージしていた。
 谷謙二(埼玉大学教育学部人文地理学研究室)の「時系列地形図閲覧サイト「今昔マップ on the web」」を参照すると、駅のある辺りは古くは一面の田圃で、中八木の集落は駅から300m程の南の、海縁にあったが戸数は多くない*1。集落の外れに墓地もないようだ。
 付近に候補としては、南東に300m程の谷八木(明石市大久保町谷八木)と北西に600m程の八木(明石市大久保町八木)集落があるが、どうも、当時の八木集落の北の外れ、現在の大久保町八木389番地にある墓地がそれらしく思える。――いや、いづれ子供を早く寝かし付けるためのもので、実際にこんなことがあったかどうか、分からないのだけれども。(以下続稿)
9月30日追記】原本の当記事に関連する写真を貼付した。

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3頁

*1:明石市立谷八木小学校の西南西。