・昭和56年頃に聞いた怪談ノート(10)前篇⑨
一昨昨日からの、真冬の真夜中、寄宿舎の廊下に響く足音の怪談についてのコメント。1行空けて16頁12行め~17頁9行め、
そこでみんなはいっせいにため息をついた。先生の話ぶり/は私達をほんとうにその場にいたような気にしてくれて、/つく息もつかずに、しずかに聞いていた。
先生の付け加えもあるらしいが、本当に話がうまい。/とくに
『生徒の一人が便所で大声を出す』
ワァァーー!
生徒たちは何があったんだと、背中にぞッぞォーと言う何か/【16】走った。が、「すべってころんで、尻もちついた」と言って、ホッ/とさせている。ここはうまくやらなければしらけてしまう。/私が、修学旅行のときに話したが、かえってしらけてしまった。/そこが先生の話のうまさであろう。こわい話をするのに、標準/語を使ったり、こわいろをかえたりするのは話下手のすること/だと思っている。ふつうに、方言で、話していれば、それだけで/も感じは出ると思う。私はそう思っている。
なお、■本先生はこれを中学の時の先生に聞いた、と前/おきしてから話した。
4行めの欄外に青鉛筆で右下向きに斜めに「→」を書いて、その上に「これを/うまく/やっての/ける。」と書入れ。それから、1~5行めに下書きが鉛筆書きで残っている。判読出来ない箇所は「○」で示した。
「○○○」といってホッとさせている。私が/はなしたとき(しゅうがく○○には、かえってしらけて○○/た○そこが先生の話のうまさというものであろう。
先生はこれを中学校の時の先生からきいた、と前/おきしてから話した。
話が長くて書くのに時間が掛かって、取り敢えず書くつもりのことを鉛筆書きでメモして置いたのであろう。
標準語の怪談を敵視(?)しているのは、何か理由がありそうだが思い出せない。前回触れた、昔話を研究(?)していた頃の、方言で昔話を記録するとか云う理想の名残であろうか。
最後に17頁10~13行め、鉛筆で以下の加筆。
この話は人をこわがらせる物がなんとなく備/わっているとおもう、私は二度ほどこの話をしたが/「こわくて夜寝れねェよ」といわれたりするほど/である。しかし私は、まっくらのところではなした。
尻切れ蜻蛉である。どうやら、1~5行めの下書きと同様に、ボールペンで清書しながら更に書き足すつもりが、そのままになってしまったらしい。――何が言いたいのかと云うと、先生は照明を暗くせずに(曇っていたが)話したのに、私は真っ暗な部屋で遥かに及ばなかった、と云うことである。
校訂案。
そこでみんなは一斉に溜息をついた。先生の話し振りは私たちを本当にその場にいたような気にしてくれて、つく息もつかずに、静かに聞いていた。
先生の付け加えもあるらしいが、本当に話が上手い。特に
『生徒の一人が便所で大声を出す』
ワァァーー!
生徒たちは何があったんだと、背中にぞッぞォーという何か走った。が、「滑って転んで、尻餅ついた」と言って、ホッとさせている。ここは上手くやらなければ白けてしまう。私が、修学旅行のときに話したが、却って白けてしまった。そこが先生の話の上手さであろう。こわい話をするのに、標準語を使ったり、声色を替えたりするのは話下手のすることだと思っている。普通に、方言で、話していれば、それだけでも感じは出ると思う。私はそう思っている。
なお、■本先生はこれを中学の時の先生に聞いた、と前置きしてから話した。
この話は人をこわがらせる物がなんとなく備わっていると思う。私は二度ほどこの話をしたが「こわくて夜寝れねェよ」と言われたりするほどである。しかし私は、真っ暗のところで話した。
前篇はここまでで以下6行は余白。(以下続稿)