・銀河テレビ小説「たけしくんハイ!」シナリオとの異同(24)
昨日の続き。
・第8回(5)父親参観③
「●小学校・五年一組」のシーンの続き、山上大介(仙田信也)の話を山口先生(石井めぐみ)がして、しんみりしたところに酔っ払った竹次郎(林隆三)が勢いよく後ろの戸を開けて入って来る。『シナリオ』では、109頁下段20行め「たけし「父ちゃん……。」」と思わず呟いたことで、110頁上段3行め「山 口「西野君のお父さんですか?」」とバレて(?)しまうのだが、TVドラマでは、いきなり、
竹次郎:「ハハッ、たけしの父親です!」
と名乗ってしまう。だから、『シナリオ』では110頁上段10行め「 たけし、下を向いてしまう。」だけなのだが、TVドラマではたけし(小磯勝弥)は席を立って最前列の生徒の机の陰にかがみ込み、やはりTVドラマ独自の、
竹次郎:「たけしいませんか?」
との追求(?)を必死にやり過ごそうとするのである。
TVドラマでは他の生徒の父母たちが酒臭そうにしたり、山口先生が竹次郎の酒臭い息に肩を竦めたりする場面があったと思うが『シナリオ』にはそこまで書き込まれていない。そしてこのシーンの最後、110頁上段11~14行めは、
竹次郎「大丈夫です。まっすぐ立ってますから。どう/ ぞ、先生、勉強の方を……。」
と、ふらつく足を踏みしめて、壁につかまって/ 立っている。
と『シナリオ』ではなっているのだけれども、TVドラマでは、竹次郎がつかまった壁には大きな模造紙に貼付した生徒たちの習字が並び、その上には折紙の輪っかを繋いだ鎖が飾りとして渡してあって、そこに手を掛けてしまったために、模造紙が剥がれ、これに引き摺られるように壁一面の模造紙と折紙の鎖が雪崩れ落ち、壁際に並んでいた父母、そして見ていた生徒たちが大騒ぎになって、まるでコント番組のようになったところで、放課後に切り替わるのである。
TVドラマでは、趣ある木造校舎の玄関から父母たちが出て来る様子が写されるが、シナリオでは110頁上段15~16行め、
●同・廊下(一時間ばかり後)
帰っていく父兄。
とある。『シナリオ』段階ではこのような校舎が撮影に使えると思っていなかったので、セットで済ませるつもりだったからであろう。
なお、たけしが帰宅したときに、111頁上段14行め「一緒に帰って来」ると思っていた真利子(木の実ナナ)に、12行め「父ちゃんは。」と聞かれているが、他の生徒の親たちも子供と一緒ではなかった。たけしは、16行め「知らないよ。先に帰ったみたい。」と『シナリオ』では答えているが、これは『シナリオ』の設定と矛盾している。ちなみにこのとき、母子家庭での頑張りを山口先生に褒められた山上大介に対する羨望の念から、13行め「俺、父ちゃんなんか死んでた方が良かった。」との名(迷?)言を吐くのである。
竹次郎はどうしたのかと云うと、TVドラマではこれに続いて、信濃屋で主人の大山(北見治一)に反省の弁を述べ、112頁下段6行め「半紙に〝禁酒〟と書いて」もらうのだが、TVドラマでは「きんしゅ」と平仮名である。
そのまま家には帰りづらくて、頭を冷やすために事情を知っている信濃屋に立ち寄った訳だが、実は『シナリオ』には、この前に竹次郎を反省させる仕掛けがもう1つあったのである。たけしが帰宅して「死んでた方が良かった」と言う前、110頁上段17行め~111頁上段6行め、
●同・教室
山口先生と差し向かいの竹次郎。
酔いはさめて、机に額がつく程頭を下げている。【110上】
竹次郎「何とも、どうも。」
山 口「たけし君ね、とっても元気でいい子なんで/ すけどね。」
竹次郎「とんでもねえ。」
山 口「ただ、算数がちょっとねえ。」
竹次郎「ああ、算数がねえ。」
山 口「あれ、たけし君が書いたお習字なんです。」
と、うしろの壁に貼*1ってあるお習字を指す。
〝元気〟と書いてある。
竹次郎「はあ、ああ。どうもすみません。何か飛んで/ もねえ事を書きやがって。あのバカ。何だってあん/ な下らねえ事を。」
山 口「いいえ。元気――ってたけし君らしくていい/ と思いますけど。」
竹次郎「ああ、元気――ねえ。どうもすみません。い/ や、私もね、親がしっかりしなくちゃいけねえと、/ 常日頃――その、何ですよ。親と子は鏡だとね。ウ/ リのツルにナスビはならないと、でもって、能ある/ タカはヘソをかくすと、そう言ってるんですよ。」
山口クスッと笑う。あわてる竹次郎。
竹次郎「とにかく、勉強するようにやかましく言い/【110】 ますから、どうかごかんべんを。」
山 口「いえ、それはいいんですけど、それよりお/ 父さん、お酒を少しお控えになった方がいいんじ/ ゃありません? ほんとに。」
とやさしく小首をかしげてのぞき込まれて竹次/ 郎大いに困る。
この場面は、1月26日付(29)に見た、たけしに「若ェ美人」の先生と聞かされて緊張し始めてしまった場面に対応しており、そこをTVドラマで省略したのに合わせて、ここも省略したもののようである。
算数で100点を取るエピソードの伏線になっているのだが、山口先生の発言を竹次郎がたけしに伝える場面があったかどうか。
そして、ここを省略するときに、竹次郎が壁に飾ってある習字を全て剥がしてしまうアイデアを思い付いたようだ。
石井めぐみファンにとってはこの場面があった方が良かったかも知れぬが、この回での山口先生の見せ場は、前回見た山上大介を褒めるところで十分だろう。(以下続稿)
*1:ルビ「は」。