・銀河テレビ小説「たけしくんハイ!」シナリオとの異同(31)
昨日の続き。
・第9回(6)たけしの勉強
2月5日付(39)に見た、同級生の大介の家を潰してしまったシーンの後に『シナリオ』にはたけし(小磯勝弥)が帰って来るなり勉強を始め、真利子(木の実ナナ)と菊(千石規子)が「何か悪さをして来たんじゃない」かと察する場面があった。
その日の晩になっても、123頁上段4行め「 神妙に勉強しているたけし。」とあって同じようにしているのだが、1度めの場面が省略されてしまったために、このたけしの柄にもない行動の意味が、TVドラマでは少々判りにくくなっている。
そこに竹次郎(林隆三)が酒も呑まずに上機嫌で帰って来る。123頁上段9~16行め
竹次郎「ああ、くたびれた。」
菊 「お帰り。あら珍しい。今日は飲んでないの。」
竹次郎「当り前だ。うるしの仕事に戻れるんだから、/ 俺も心を入れ替えてだな――。」
辛い真利子。
竹次郎「お、たけし、勉強か? しっかりやれ。」
と、たけしのノートを見る。
分数をやっている。
そして、何も解っていないのにたけしの勉強に口出しするのである。たけしは分数の加算減算に取り組んでいるのだが「足し算と引き算しか出来ない」竹次郎は、分子と分母をそのまま足して、たけしの答えは間違っている、と言う。
この辺り、TVドラマはほぼ『シナリオ』の通りであったと思うのだけれども、123頁下段18行め~124頁上段4行め、竹次郎が自分の正しさを説明するための、
竹次郎「いいか、ここから下は一階だろう、なッ?/ 二軒の家の一階に、それぞれ二人と三人が住んで/ いるだろう。なッ? そいで、二階に一人ずつだ。/ なッ? そしたらお前、一階の二人と三人を足し/【123】 て、五人だよ。二階は一人ずつだから二人だよ。見/ ろ、一階に五人、二階に二人だ。何だって下が六人/ で上が五人になっちゃうんだ。ちゃんと説明してみ/ ろ。
と云う長い台詞がTVドラマでは省略されていた。括線(横棒)の下、分母が一階、上、分子が二階だと云うのである。なお末尾の鉤括弧閉じがないのは原文のママ。
そして、一人だけ上機嫌な竹次郎を余所に、『シナリオ』では他の3人、特にたけしと真利子はそれぞれ物思いに耽るのである。すなわち、124頁上段13~21行め、
真利子、溜息をつく。
たけし、じっと正面を見ている。
× × ×
たけしのイメージ。
潰れた小屋の前で佇んでいる大介母子。*1
× × ×
たけし、深刻に考え込んでいる。
真利子も考え込んでいる。
菊、真利子を突つく。
とあって、真利子はたけしの、たけしは真利子の物思いの種をまだ知らない。察する余裕もない。しかし同じように「考え込んでいる」シーンを少し時間を取って見せることになっていたのだが、TVドラマでは「たけしのイメージ」とそれに関連する考え込むたけしの描写は省略され、差当り上機嫌な竹次郎に、その夢のような話が詐欺であったことを説明しないといけない真利子に絞って、見せている。これは良い選択だったと思う。
逆上した竹次郎が飛び出しかけるのを真利子が止めて、『シナリオ』では124頁下段15行め~125頁上段1行め、
竹次郎、ガックリと座って――。
竹次郎「じゃあ……。」
菊 「何か話がうますぎると思ったのよねえ。」
竹次郎「……!」
真利子「あんた……。」
たけし、びっくりして見ている。
竹次郎「畜生……。」【124】
竹次郎、ガックリ。一同みじめである。
と竹次郎は家の中で座り込んでしまう。TVドラマでは竹次郎に「ガックリ」させる暇を与えず、そのまま、真利子に止められながら例の「貧乏人騙しやがって」云々の泣かせる台詞に繋ぐ。『シナリオ』では「ガックリ」したままなのでこの台詞は「!」なしで言わせている。そしてこのシーンの最後、125頁上段6~8行め、
菊 「もうちょっと早く判ってればねえ。お向かい/ から借金しなくてもすんだのに……。」
竹次郎「――。」
との、更に追い打ちを掛ける菊の一言もTVドラマでは省略され、代わりに家をふらっと出た竹次郎は、外に座り込んで、茫然とするのである。(以下続稿)
*1:ルビ「たたず」。