瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

ビートたけし『たけしくん、ハイ!』(45)

銀河テレビ小説たけしくんハイ!」シナリオとの異同(35)
 昨日の続き。
・第10回(3)英一郎⑥
 さて、2月9日付(43)に見たように、明日、英一郎(趙方豪)が西野家を出ると云うので、いよいよ竹次郎(林隆三)に話さないといけないのだが、134頁上段18行め~135頁上段2行め「●西野家・中(夜)」、竹次郎は夕食の時間になっても帰って来ない。そこでどうせ信濃屋だろうから酔っ払う前に呼んで来ようと秀二郎(松田洋治)が気を利かせるのだが、たけし(小磯勝弥)が付いて来てしまう。
 しかし、135頁上段3行め~136頁上段5行め「信濃屋の中」、135頁上段4行め「  すでに酔っ払っている竹次郎。」とあって、既に手遅れであった。この場面、竹次郎は主人の大山(北見治一)相手に、古田に悪態をつき、大山に禁酒のことを持ち出されると、1月28日付(31)に見た、大山に書いてもらった「きんしゅ」の紙を破いてしまう、その最悪の場面に秀二郎とたけしが顔を出すことになる。TVドラマでは悪態の前半、135頁上段5~16行めが省略されている。

竹次郎「くそォ! 面白くねえ あの野郎」
大 山「どうしたに、西野さん。」
竹次郎「どうもうこもねえよ。俺ァ、元々はうるし職/ 人なんだ。」
大 山「ああ、知ってるよ。」
竹次郎「アメリカへ輸出するって話があってよ。会社/ 作って、うるしのいいのをアメリカ人に売ろうっ/ て話なんだ。ところがよ、それが、くそ、インチキ/ だったんだ。それも、昔の仲間だましやがって……。/ 人に夢だけ見させやがって、え? おやじさん、/ これじゃ、頭にカッと血が上るだろ?」
大 山「そりゃねえ。」


 これは経緯の確認だから、確かに毎回楽しみにしている視聴者には必要ないだろう。なお、TVドラマに残された後半でも、大山は竹次郎に「西野さん」と呼び掛けているが、TVドラマでは全て「親方」になっている。但し、秀二郎とたけしが現れたことを告げる台詞には、『シナリオ』136頁上段3行めには「ホラホラ西野さん、お迎えお迎え。」とあったが、ここはTVドラマでも「親方」と言い換えずに「西野さん」を省いていた。
 そして136頁上段6行め~下段2行め「●道」で、英一郎が懸念した通りにたけしが、秀二郎に「大丈夫かな」だの「もめると思うな」だのと話し掛け、竹次郎に勘付かれてしまうのである。
 続く136頁下段3行め~138頁下段14行め「●西野家・中」が修羅場である。夕食後の西野家では、菊(千石規子)が棟梁の松原源治(金田龍之介)と薬局の三上(牧伸二)に義太夫の稽古を付けている。『シナリオ』には136頁下段8~11行め、

菊  「それじゃ三上の旦那、この前さらった所を/ もう一度。」
三 上「そうですか? どうもね、稽古してないか/ ら、ここんとこ声の調子がね。」

との会話があるがTVドラマでは省略されている。
 そこに竹次郎が入って来て、秀二郎とたけしから聞き出しているのでいきなり英一郎を殴るのである。
 英一郎の主張は、こんな狭いところに6人暮らして勉強出来ない、下宿代はアルバイトで賄える、と云うものである。
 竹次郎は「親を見捨てようってのか?」すなわち「見積りはどうするんだ」と云うのである。英一郎の見積りについては1月24日付(27)に触れた。
 結局、源治や三上も巻き込んでの大騒動になり、ついに真利子はみんな出て行こうと宣言、応じて竹次郎は皆を追い出してしまう。
 この辺りは動きが大きく、NHKプラスの見逃し配信では異同を追い切れなかった。たけしの動きだけに注意すると、竹次郎にみんな揃って出て行けと言われて、『シナリオ』では138頁下段12~13行め、

  一同、黙々と出て行く。
  一人残る竹次郎。

となるのだが、TVドラマではたけしは一人遅れて、真利子に「たけしぃ!」と呼ばれて出て来る。
 追い出された一家は138頁下段15行め~139頁下段2行め「●松原組・座敷」に身を寄せるのだが、源治や真利子が竹次郎を悪く言うのを聞いていて、139頁上段12行め「  たけし、下をむいている。」のであったが、源治が英一郎と秀二郎が良く出来ることを褒めた後で、139頁上段21行め~下段2行め、

  定子、チラとたけしを見てつけ加える。【上】
定 子「たけしちゃんも――ねえ、元気がいいし。」
  たけし、さらにうつむく。

と余計なことを言って落ち込ませるようになっていたが、TVドラマではうつむかずに、真利子が見やると立ち上がって、表に出るのである。外は雪が降っている。『シナリオ』にはここに指定はないが、この回の最後、140頁下段9行め「  小雪が降っている。」とあるから、これを前倒ししたのである。
 西野家に戻ったたけしに、竹次郎が真利子たちはどうしているか、声を掛ける。140頁上段1行め~下段3行め、

たけし「――。松原さんち……。」
竹次郎「――。」
たけし「――。」
竹次郎「たけし、こっちに来い。」
  たけし、上がって竹次郎のそばへ。
竹次郎「もっとこっちに来い。」
  たけし、竹次郎の前に行って突っ立ったまま。
  そのたけしを、グイと抱き寄せて自分にひざの/  間に抱え込む竹次郎。
竹次郎「何しに来た? ん?」
たけし「――。(しゃくりあげる。)」【上】
竹次郎「ん?」
  いつまでも、たけしを抱いたまま動かない竹次/  郎。


 TVドラマでは松原家にいると答えてから間なしに竹次郎は「こっち来い」と言い、少ししてたけしが寄って来る。『シナリオ』では「もっとこっち来い」と言ってから竹次郎がたけしを抱き寄せることになっているが、TVドラマでは「何しに来た? ん?」と言われてしゃくり上げたたけしを、竹次郎が無言で抱き寄せるのである。そして頭を1つ叩く。最後は表からその様子を見ていた真利子が、立ち尽くして涙を流すのである。
 さて、この辺りは『シナリオ』の巻末、布勢博一「あとがき」に、221頁2~4行め、

 テーマは、勉強の出来る兄を持った為に、コンプレックスをバネにして自分を主張する/たけしと、字が読めず、世に入れられない事から、酒で自分を発散させている父親という、/いわばはみ出し者同士の心の通い合いというところに据えた。

とある、特にこの後半部分がよく表現された場面になっている。(以下続稿)