瑣事加減

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日本の民話1『信濃の民話』(12)

信濃叢書『信濃昔話集』(2)
 本書に「採集 牧内武司」として見えている話の典拠と思しき牧内武司の著書だが、昨日述べたように10月20日付(08)に見た伊那民俗研究會 編『伊那民俗叢書 第二輯 昔ばなし』と共通する話が少なくないようだ。――もちろん『昔ばなし』と『信濃昔話集』の2冊を全て点検するべきなのだけれども、大変な手間になるので本書に採られている話に限って検討することとしよう。
 まづ10月20日付(08)に挙げた『昔ばなし』に拠る話が『信濃昔話集』に見えるかどうかを確認して置こう。――「採 集  伊那民俗研究会  岩崎清美」とされている話で『信濃昔話集』にも見えるのは、
【40】ねずみの御殿〔下伊那郡
・「六、爐 邊 譚」の10番め、一六四頁5行め~一六五頁「鼠の御殿」
【43】ズイトン坊さまのはなし〔下伊那郡
・「三、狐 狸 譚」「2、狸」の7番め、八八頁9行め~九〇頁10行め「ズイトン坊の話」
の2話である。
【42】咲く花と木の葉〔下伊那郡
【45】石の正兵衛さん〔下伊那郡
の2話は『信濃昔話集』には採られていない。
 それから『昔ばなし』に載っているのに「採 集  伊那民俗研究会  岩崎清美」ではなく「採 集  下伊那郡龍江村天龍峡  牧内武司」となっている話が1話ある。
【41】まま子と苺の実〔下伊那郡
・『昔ばなし』一三六頁10行め~一三八頁10行め「九〇 繼子と苺の實」 
・「六、爐 邊 譚」の13番め、一七〇頁6行め~百七十二頁「赤い苺と黒い苺」
 『信濃昔話集』ではなく『昔ばなし』の方が本書と同じ題で出ているので、原稿執筆に際しては『昔ばなし』を使用していたが、原話情報の記載に際して『信濃昔話集』の方を見て同じ話が載っているので、取り違えてしまったものだろうか。ただ、そうすると気になるのが「採 集  牧内武司」ではなく居住地が書き込まれていることである。
 他には次の話が「はなし  下伊那郡龍江村天龍峡  牧内武司」となっている。
【49】焼棚山の山姥〔西筑摩郡
 この話は『信濃昔話集』にも、「二、山 の 譚」の17番め、三三頁11行め~三六頁6行め「泣ビソ嶽の山姥」の1節(三五頁4~9行め)に見えているが、ごく簡略なもので、結末が異なっている。すなわち『信濃昔話集』に拠ったのではなく、編集委員会の会合(があったかどうか分からぬが)などの折に、牧内氏に直接「はなし」を聞いたのであろう。本題の「泣ビソ嶽の山姥」も木曾(西筑摩郡)の話なので『昔ばなし』には載っていないはずである。
 だとすると【41】についても、牧内氏本人が、この話は自分が郷里の龍江村で採集したのだが『昔ばなし』が話の由来を記さなかったためにその来歴が明らかにされなかった、と説明したため、ここで敢えて「採 集  下伊那郡龍江村天龍峡  牧内武司」と、わざわざ採集地をも書き込んで断ったのだ、と云う可能性が考えられなくもない。ただ、この話についてこのような細かな配慮をしたとなると他地域の「採集  牧内武司」となっている話の由来が、少々気になることになって来るのである。(以下続稿)