瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

日本の民話1『信濃の民話』(11)

 昨日の続きで、今回は5つの地域全てについて話を提供したことになっている牧内武司について、確認して置こう。
 牧内氏には次の著書があった。書名からして全県下を覆っているはずである。
信濃叢書『信濃昔話集』昭和十四年九月一日印行・昭和十四年九月五日發行・定価一圓二十錢・山村書院・八+二一八頁
 牧内氏の著作権は切れていないはずだが、何故か『信濃昔話集』のみ国立国会図書館デジタルコレクションでインターネット公開されている。この本は昭和18年(1943)1月に村沢武夫『信濃傳説集』と同じ装幀で再刊されている。未見だが図書館OPAC や「日本の古本屋」等を見るに「203頁」となっているので組み直されているらしい。
 表紙は横組みで、上部に大きく「集 話 昔 濃 信」と標題、上に小さく「 書 叢 濃 信 」に下線、下に少し離れて小さく「著 司 武 内 牧」とある。中央やや下に藁靴を履いた少女の版画、その下にゴシック体でごく小さく「版 院 書 村 山」とある。
 見返し(遊紙)に次いで扉、四隅の少し切れた太線の枠を、縦線で中央を広く、左右を狭く3つに仕切って、右の枠の上部に「牧 内 武 司 著」中央の枠の上部に大きく「 信 濃 昔 話 集」、左の枠は中央から下へ「飯 田 山 村 書 院 發 行」とある。裏は白紙。
 次に著者「は  し  が  き」、2行めは1字下げで「信濃の昔話を纏めて上梓する」、3~8行めの段落は冒頭字下げなしで字間を空けて1行29字でゆったり組んでいる。9~10行めの段落は冒頭1字下げでやはり1行29字、11行め、2字下げで小さく「昭 和 十 四 年」、12行めは中央に小さく「秋訪るゝ故郷の窓に凭りて」とあって、最後13行めは下寄せで「著   者  」とある。どうやって集めた「昔話を纏めた」のか、具体的な説明はない。頁付なしで裏は白紙、国立国会図書館蔵本には「正  誤  表」が貼付されている。
 次いで「目  次」が八頁。八頁の最後、10行め「八、信濃の昔話に就て」三点リーダ21個を挟んで下部に半角漢数字で「二〇七」、1行分空けて更に波線で仕切って、

表  紙  カ  ツ  ト
     信 濃 の 子 供    中  島  繁  男

とある。
 1頁(頁付なし)は「山の信州話」の扉。目次、一頁2行めにはゴシック体漢数字「一、山 の 信 州 話」とで番号が打たれており3行めは3字下げでごく小さく「峠の上  三日月  小便桶  鼻コスリ  山家の馬  山の米  百田………… 一」とあるが本文は細分されていない。これは山国らしい話を幾つか繋ぎ合わせたエッセイ風の導入になっている。すなわちこれが「採 集  牧内武司」の本書【38】百田ばなし〔下伊那郡〕の原話である。
 牧内氏は昭和5年(1930)に岩崎清美・中島繁男らと「民俗の会」を結成、これが昭和7年(1932)8月に「伊那民俗研究会」に発展している。従って、10月20日付(08)に見た伊那民俗研究會 編『伊那民俗叢書 第二輯 昔ばなし』と共通する話も少なくない。但し『昔ばなし』の岩崎清美「序」にあった「會員の中の幾人かの人達」の1人が牧内氏であった可能性が高く、『昔ばなし』と共通する話は、牧内氏が『昔ばなし』から採ったのではなく、そもそもが牧内氏が提供した話であったかも知れない。但し『昔ばなし』も『信濃昔話集』も、ともに話の由来を記さないので残念ながらその辺りの事情は、明らかにし得ない。
 この依拠関係については、稲田浩二・小沢俊夫 責任編集『日本昔話通観●第12巻山梨・長野』(一九八一年三月一日第一版第一刷発行・定価一〇、〇〇〇円・同朋舎出版・xxvii+715頁・菊判上製本)691~696頁「資 料 目 録」に指摘されている。扉裏に「篇別編集委員/浅 川 欽 一/土 橋 里 木」とあって、浅川氏が長野県担当、土橋氏が山梨県担当であろう。
 資料には番号が打たれており「単 行 本」の〈長野〉が1~24、〈山梨〉が25~38、「稿 本」は〈山梨〉39、「全国にわたる資料」40~44、「雑誌・新聞」〈長野〉45~62〈山梨〉63~66、「地誌・民俗誌類」〈長野〉67~81〈山梨〉82~88、695頁下段3~18行め「参考資料」10点及び696頁上段「参考文献」には番号が打たれていない。「参考資料」の1点め(695頁下段4行め)に「「信濃の民話」編集委員会 信濃の民話 1957.6.30 未来社」と本書が挙がっている。参考資料の扱いは691頁上段2~13行めの6項目の凡例の最後に見えている。その前の項目ともども抜いて置こう。10~13行め、

⑸〔 〕内は同一資料、またはそれとみなされる資/ 料が重載されている文献の番号を示す。
⑹その他に参考とした資料を「参考資料」として掲/ げる。


信濃昔話集』は691頁下段15~16行めに「8 牧内信濃……牧内武司 信濃昔話集 1939.9.1 山村書院/ 〔2・4・69〕」と見える。但し9月1日は印刷日だろうから9月5日とすべきであろう。「重載されている文献」とは、691頁上段18行め~下段1行めに「2 小県郡……小山真夫 小県郡民譚集 1933.4.30 郷土研/ 究社〔8〕」下段4~5行め「4 岩崎昔……伊那民俗研究会(代表者・岩崎清美) 伊那民/ 俗叢書第二輯「昔ばなし」 1934.6.10 信濃郷土出版社〔8〕」そして694頁下段3~4行め「69 北安曇二……信濃教育会北安曇部会 北安曇郷土誌稿第二/ 輯 1930.12.25 郷土研究社〔8〕」である。これ以外にも、ここに指摘されていない依拠文献がありそうである。
 ちなみに「8 牧内信濃」の次、691頁下段17~18行め「9 信濃伝説……村沢武夫 信濃伝説集 1943.6.5 山村書院/ 〔3〕」が挙がる。〔3〕は691頁下段2~3行め「3 伊那伝説……岩崎清美 伊那の伝説 1933.7 山村書院/ 〔9・11〕」、〔11〕は下段21~22行め「11 伊那谷……村沢武夫 伊那文庫6「伊那谷の伝説」 1970./ 11.3 伊那史学会〔3〕」である。(以下続稿)