瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

白馬岳の雪女(097)

・三浦秀夫『妖怪変化譚』(2)
 本書の内容を確認したのは2年半ほど前(2019年8月)だが、当時は、いづれ白馬岳の雪女も取り上げるつもりだったけれどもまだ資料を借りては眺めている段階であった。昨年7月に漸く取り掛かったものの、本書に触れる機会がなかなか作れなかった。理由は2つある。1つは、当時たまに出掛けていた、本書を所蔵する都内の図書館から足が遠退いていること。2つ目は、これから述べるように、ちょっと扱いに困るような内容なのである。
 雪女を取り上げているのはもちろん【2】15~19頁「雪おんなの子別れ」である。掲載順に収録しているとすれば「歴史と人物」昭和54年2月号に掲載されたはずである。未見だが「日本妖怪変化譚」と題する連載だったようだ。
 さて「雪おんなの子別れ」はまづ15頁2行め「 山ぐにの吹雪はすさまじい。」と書き始めて、吹雪の夜に感じる気配に触れ、16頁1行め「 古老のはなしだと、雪おんなはそんな夜にあらわれたものらしい。」として、会津に伝わる、吹雪の夜に老夫婦の家に来た娘を風呂に入れたら消えてしまったと云う話を紹介し、さらに新潟に伝わる話ではひとり者の男の家に居着いてそのまま男の嫁になるが同じ結末になっている、として、17~18頁8行め、

 嫁になれるくらいだから、当然母親になる雪おんなもいる。
 昭和三年刊の宮坂幸造他編『信越の土俗』には、十人もの子を産んだ雪おんなのこと/が出ている。
 白馬村の麓の村に樵*1の親子が住んでいた。ある日、森からの帰り猛吹雪に遭い、山小/屋に泊った。その夜中、雪女が山小屋にあらわれ、眠っている父親に冷たい息を吹きか/けたあと、目覚めているが身動きできないでいる伜にも近づいてくる。その顔はぞっと/するほど美しかった。
 雪女は伜の顔をじっと見ると、「お前はまだ若いから可哀そう」と言って息をかける/のをやめ、「そのかわり今夜のことは決して誰にも喋るでない、喋れば必ず命をもらう」/と言いおいて立ち去る。朝みると父親は冷たくなっていた。
 その後ひとりで森へ通っていた伜は、翌年の冬の暮方、山道で旅の娘と道連れになり、/つよく惹かれて家へ誘った。娘はそのまま嫁になった。嫁は伜との間に十人もの子を産/んだが、初めて家へ来たときと少しも変わらぬ若々しさだったので、村人はみな不思議/だと噂し合った。
 ある夜、眠った子供たちの枕元で針仕事をしている嫁の横顔を眺めていた伜は、若い/【17】ときお前とそっくりの雪女に出会ったことがあると、山小屋の夜のできごとを話し始め/た。それを聞くうち、嫁の形相はみるみる変わっていき、「それはわたしじゃ!」と叫/んだ。
 そう叫ぶうちにも嫁のからだは白い雪煙となって戸の隙間から出て行き、二度と嫁の/姿を見ることはなかった――。


 三浦氏は Lafcadio Hearn の「雪女」に全く触れていない。しかしここに示された粗筋はほぼ「雪女」に同じである。そして「白馬村」と云うからにはこれも白馬岳の雪女の1例なのであろう。
 しかしながら、2021年9月21日付(54)1月9日付「長沢武『北アルプス白馬連峰』(2)」に見たように「白馬村」は昭和31年(1956)に長野県北安曇郡北城村・神城村が合併して発足したので、昭和3年(1928)にはなかったはずである。初出では「白馬山」だったらしい。何故「白馬岳」ではなく「白馬村」と改めたのかは、よく分からない。
 注目すべき点としては①主人公父子が木樵であること、②子供が10人、③主人公の母親が登場しないこと、④雪女が主人公を殺さなかった理由の説明がないこと、が挙げられよう。
 次回、出典の問題や内容について、余り突っ込んだ検討は出来ないが、簡単に見て置くこととしよう。(以下続稿)

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 じきに日本では検査希望者が検査数を上回って感染者数の勘定も出来なくなるだろうと思っていたが、日本より人口の少ない西欧諸国で出来ていることが出来ないのは、もう2年になろうと云うのに、やる気がないからである。都知事は第5波のときには野戦病院を作るとか云っていたが、減って来たら立ち消えになった。野戦病院はもう作らなくても良いのかも知れないが、しかしどうしてこうも実態把握に努めようとしないのか、理解に苦しむ。実態が分からないと対策を立てられないはずである。要するに今、政府にくっついて対策を立てている連中は科学者ではないのである。
 昨夏、ワクチン供給が滞ったとき、私の住む市の集団接種会場にワクチンが回って来なくなりそうになったのを、自民党の議員が掛け合って確保した、と云うことを衆院選のときに盛んに宣伝して回っていた。――本当にうんざりした。そういう、利益誘導出来ますみたいな政治しかしないから、GoToとか18歳以下バラ撒きばかり素早くて毎度感染拡大で検査能力が追い付かないとか云った按配になってるんだろうが。連中に俯瞰的総合的判断など全く期待出来ない。しかし、そういう政治家や政党に投票してしまうのだから、そして今更「こんなに急に感染者が増えると思わなかった」などと臆面もなく言う専門家が未だに馘首もされないのだから、日本はまた御目出度く敗け続けそうだ。

*1:ルビ「きこり」。