一昨日からの続きで、今回は今野圓輔 編著『日本怪談集―妖怪篇―』から、「雪女」譚に類似する、山小屋に泊まっていた杣や猟師たちが、訪ねて来た何者か(大抵は若く美しい女)に夜中、寝入っているところで(纏めて)殺される、と云う話を拾って置こう。
まづ「第二章 家の中の化け物」の「二 赤子の怪」の、枕返しに関する記述を抜いて置く。①50頁3~14行め②(上)56頁4~16行め、
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和歌山県日高郡龍神村で七人の杣が山中で檜の大木を伐ったところ、枕を並べていた七|人とも/マクラガエシにあって死んだ。伐られた檜の大木の精(二九〇頁参照)*1のなせる業|だといわれた。/(森彦太郎『南紀土俗資料』)*2
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枕を返されるという事象には解説が必要かと思う。人の睡眠中に枕を返されることに、|前代で/は今では考えられないような畏怖を伴っていたと思われ、枕を返すということには|特別な意味が/あった。枕にはそれを使っている者の生霊が籠っていると考えられていた証*3|拠は少なくない。枕/に関する俗信はじつに多い。島根県隠岐の島*4で死者にもっとも近い肉親|が、その枕を足で蹴りは/ずす習俗があることや枕神の信仰などを考え合せると、この種の|霊怪がなぜに枕を返すような動/作をする必要があったか。枕を返すということは、その枕|で眠っていた者を死に導くことにな/る。枕の俗信が衰えた後は、たんなるいたずらと解さ|れるようになった。
類話では、夜中に何があったのかを語る目撃者を1人生存させているのだけれども、この話では全員死亡しているから何が起こったか分からない。とにかく尋常な事態ではない訳だが合理的解釈を考えるとすれば一酸化炭素中毒と云うことになろうか。しかし、この「マクラガエシ」が、そこに何か超自然な存在の介入を想起させる。大木の伐採と云う原因となる事象も存するとなれば、それは確度の高い推測、と云うことになってしまう。
次いで「第七章 恐ろしい動物の怪」の「三 蟇と蜘蛛」に、①179頁15行め~180頁7行め②203頁2~12行め、
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若者たち五、六人が泊っていた山小屋に、ある晩「道に迷ったから一晩泊めてもらいた|い」と/美しい娘が入って来た。
それで泊めてはやったが、若者の内の一人が、どうも怪*5しいと感じたので、眠ったふり|をして/【179】様子をうかがっていると、その娘は仲間の男のところへ這って行って、口から血を|吸いはじめ/た。そこで様子をうかがっていた若者は木割の斧で娘の頭を打つと、ふっと姿|が消えてしまっ/た。
さて、一夜明けてみると、血を吸われていた仲間は死んでしまっていた。小屋の外へ出|て見る/と、血の跡がついているので、その後を追って行くと、巣の前でガマが死んでいた|という。(和気/周一「真野聞書」『讃岐民俗』二)
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とある。この話だと1人だけ寝ずに見張っていた仲間によって娘に化けた蝦蟇は撃退されており、死んだのは1人だけらしい。しかし全員疲れのために眠ってしまっていたとしたら、皆殺しになったのであろうか。(以下続稿)