昨日取り上げた②『昭和・平成・令和 長編集』第二章【4-2】「ピンクの女」は、昨日も注意したように【4-1】「闇夜の赤ん坊」と抱き合わせて【4】「ナオ・バーズ・バー」として纏められている。
そのため、初出『稲川淳二のすご~く恐い話(PARTⅠ)』第34話「私の店に来る、ピンクの女」の冒頭、185頁3~10行め、
荻窪にね、『ナオ・バーズ・バー』って、ちっちゃなバーがあるんですがね。
ほとんど、赤字の店なんですよ。
まあ、私の、店なんですけどね。
鳥が好きなもんで、そんな名前をつけたんですが、デザインなんかもね、自分でやったんで/すよ。
ある日のことですよ、後輩がね、三鷹に泊まっている、っていうんで、
「じゃあ、飲もうか」と、あっちこっちと飲み歩いた後、店に、行ったんですよ。
私が店に行くのは、‥‥
とあったが、「ピンクの女」は111頁2~5行め、
ある日のことですよ、後輩がね、三鷹*1に泊まっている、っていうんで、
「じゃあ、飲もうか」
って、あっちこっちと飲み歩いたあと、私の店に、行ったんですよ。
私が店に行くのは、‥‥
と、いきなり本題に入っている。これはもちろん店の説明を「闇夜の赤ん坊」の方に移しているからで、その冒頭、107頁3~8行め、
今はもうないんですが、もうずい分前なんですがね、荻窪*2に『ナオ・バーズ・バー』って、ちっちゃな/バーがあったんですよ。ほとんど赤字の店だったですよ。まあ、私の店なんですけどね。鳥が好きなもん/で、そんな名前を付けたんですが、デザインなんかも自分でやったんですよ。
その店にはね、いろんな人が来てくださったんですよ。前にお話ししたロングヘアーの、サーファーの/お坊さん、彼にはね、妹さんがいらっしゃいましてね、これは、その方の話なんですよ。
お坊さんのご実家は地方にありましてね、‥‥
と「私の店に来る、ピンクの女」を下敷きに、過去形にして語っている。この冒頭で分かるように「闇夜の赤ん坊」は、店の客の話と云うことで「ナオ・バーズ・バー」とは関係がない。無理矢理抱き合わせたような按配である。
ちなみに「前にお話ししたロングヘアーの、サーファーのお坊さん」だが、②『昭和・平成・令和 長編集』を頭まで遡っても登場しない。そこで①『昭和・平成傑作選』を見るに、第二章【10】「長い死体」の冒頭、93頁2~4行め、
今はもうやめたんですが、私、荻窪に店を持っていたんですよ。その店にね、いろんな人が来てくださ/ったんですが、その中には面白い人もいるんですね。お坊さんなんですよ。まだ若い三十代の方で、髪の/毛もロングヘアーなんです。‥‥
とある。この話の「出典・初出」は『稲川淳二のすご~く恐い話 PARTⅡ』第7話「サーファーの死。そして…」であるが今手許にないので確認出来ない。「私の店に来る、ピンクの女」のように、店を続けているように語っていたと思われるのだけれども。
「闇夜の赤ん坊」も「長い死体」と同じ頃に聞いたとすれば30年は前の話と云うことになるのだが*3リイド文庫『稲川淳二のすご~く恐い話』シリーズには収録されていなかったらしく「出典・初出一覧」には12月22日付(3)に見たように「(原題:闇夜に泣く赤ん坊) ユニJオフィース」とある。
この「ユニJオフィース」とは何だろう? 「オフィース」と云うからには事務所だろうと見当は付いたが、検索して見るに、やはり稲川氏の個人事務所で、東京都中野区松が丘1丁目にある。しかしWebサイトなどを拵えていないので殆ど情報がない。
常識的に考えるに、――この事務所に専属の作家が、録音から文字起こしして、聞くだけだと何となく分かったような気になってしまうところを文字で読んでも不足を感じさせない程度に整えた本文を、テキストとして使用した、と云うことなのだろう。リイド文庫『稲川淳二のすご~く恐い話』を「出典・初出一覧」に挙げている話も、細かく手を入れているようである。「オリジナルのまま」ではないが、それは「現在では不適切」だが変えてしまうと「作品制作時の時代背景」を反映しなくなってしまう「表現」はそのままにした、と云うことなのであろう。
それにしても謎なのは、稲川氏の怪談集は過去に当ブログでも取り上げたザテレビジョン文庫や竹書房文庫など、リイド社以外からも少なからず出ているはずである。リイド文庫『稲川淳二のすご~く恐い話』もそのままでないのなら、これら他社から出ているものを出典として(事実上)利用している話は、そちらを挙げれば良かったのではないか。「ユニJオフィース」では「出典」にはならない。②『昭和・平成・令和 長編集』は年を入れていないから「初出」の表示としては不完全である。「作品制作時の時代背景を尊重し、オリジナルのまま掲載し」た、と云うのであれば、本文に少し手を入れたとしても「オリジナル」の時期は示してもらわないと(私のような者にとっては、扱いに)困るのである。(以下続稿)