瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

『稲川淳二の恐怖がたり』(3)

竹書房文庫『ライブ全集①'93〜'95 稲川淳二の恐怖がたり〜祟り〜』(3)
 さて、本書に関しては2022年12月28日付「『稲川淳二のすご~く恐い話』(6)」に触れたように、刊行当時本書を見た中山市朗が、自分の話が使われ、かつ話の提供者と云う扱いになっていることに気付く、切っ掛けとなった本のようである。すなわち、2022年12月27日付「稲川淳二『稲川怪談』(7)」に触れた、ラジオ関西木原浩勝の番組「怪談ラヂオ~怖い水曜日」に持ち出された、稲川氏と『新耳袋』著者、木原氏・中山氏の間に交わされた、2002年5月28日付の合意書には「今回問題の引き金となった「ライヴ全集①稲川淳二の恐怖がたり~祟り~」(竹書房)を含めた」とあるのである。ただ、周辺記事や回想類には若干違ったことが書かれていて、私はどうも整理しきれずに(そして余り深入りしないようにと思って)書いているのだけれども、今回目を凝らしてミドルエッジ編集部「ミドルエッジ」2018年11月6日 更新「稲川淳二の怪談盗作問題は平成のうちに解決するのだろうか。」に掲載されている合意書の複写を見て、遅ればせながら確定出来た。いや本当はもっと前に確認すべきだった。申し訳ありません。
 さて、この合意書では、まづ「「稲川淳二のすご~く怖い話」「コミック稲川淳二のすご~く怖い話②」「同⑤」(リイド社発行)」が槍玉に挙がっている。その、リイド文庫『稲川淳二のすご~く恐い話(PARTⅠ)に「Nクン」が4話、登場することは2022年12月28日付「『稲川淳二のすご~く恐い話』(6)」に見たところである。そこでは「N君」は「知人の作家」と云うことで、主従・上下の関係にあるような書き方にはなっていなかった。木原氏はこのときから既刊の『新耳袋』の話が使われていることに気付いていたらしいが、問題にはしなかったようである。
 ところが本書の刊行によって、リイド文庫と同時期、或いはそれ以前の平成6年(1994)の怪談ライブから、中山氏のことを恰も主従・上下の関係にあるかのように語っていたことが分かってしまった。本書は一昨日見たように、ライブでの語りを忠実に再現したものなのである。そうすると、私は全く知らなかったが、扶桑社版『新耳袋』が平成10年(1998)にメディアファクトリーから『新耳袋』第一夜として再刊されたとき、『新耳袋』側が稲川怪談を盗作したかのように騒がれてしまったと云うのも、ライブではリイド文庫のような対等の「知人の作家」ではなく、稲川氏に従属する「ブレーン」、協力者であるかのような物言いが、繰り返しなされていたから、と云うことになりそうである。
 そこで以下、本書で中山氏の名前を挙げている話を確認して置こう。話の題は番号付きでカバー折返しに列挙されているものに拠った。ただ、昨日眺めた再録でも注意したように、実際の収録順とは前後しているものがある。『稲川淳二のすご~く恐い話』に収録された話について、既に検討済みの場合は ※ で註記した。詳細は2022年12月28日付「『稲川淳二のすご~く恐い話』(6)」を参照されたい。それから『稲川淳二のすご~く恐い話』では中山氏の名前を挙げていなかった話は ★ で註記した。中山氏らしいのだけれども本書でも名前を挙げていない場合、別人かも知れないけれども一応備忘のため、メモして置いた。
・24「メリーさんの館」
 冒頭近く、285頁8~12行め、

 私の仕事仲間のブレーンで、見たというのが、行ったヤツが、いる。実際に。中/山っていって関西に住んでるヤツで、ある時そいつ引っ張ってって聞いたんです。/どういうもんだった? って。彼、話で有名だし、昔から言われていて、一度見に/行ったほうがいいっていうんで、行ったらしいんだ。
〝メリーさんの館〟 に。【285】


 稲川氏に訊かれたことが切っ掛けで、中山氏は探しに出掛けたように読める。
 ★ リイド文庫『稲川淳二のすご~く恐い話』第11話「メリーさんの館」
 64頁15行め~65頁1行め、

 私は、そこに行って来たっていう人に、会ったんですよ。【64】
 若い奴、2人だったんですけど、こいつがね、途中で記憶が途切*1れる、つうんですよ。


 この書き方では中山氏とは思えない。『新耳袋』には載っているのであろうか。
・26「幼稚園のバス」
 収録順は25番めで番号とは異なっている。冒頭、293頁3~6行め、

 この間も、うちのブレーンのヤツが、若手で、これも大阪に住んでるんだけど、/作家でマスコミの仕事やってますから。よく徹夜なんかしてると、金がないもんだ/から、途中でインスタントなんか買いに出かけたりしてね。
 その時は、マスコミ関係の仲間と二人で車に乗って、‥‥


 大阪の若手でマスコミの仕事をしている作家、と云うことで中山氏と条件は合致するが、別人かも知れない。私は『新耳袋』はかなり以前に、何冊か、何となく目を通した程度でほぼ記憶していないので、同じ話が出ているかどうか、俄に分からない。
・25「とりついた家」
 収録順は26番めで番号とは異なっている。冒頭、297頁3~5行め、

 さきほどお話した中山、私の大切なブレーンでね、彼といろいろと仕事のことで/打ち合わせするんだけれども、以前に彼、すごいのいくつか、怖いこと体験してい/て、この前話してくれましたよねえ―――。


 ※ リイド文庫『稲川淳二のすご~く恐い話』第10話「とりついた家」
・27「先輩のハト」
 冒頭、306頁3行め~307頁1行め、

 今、話した中山の話ねえ。
 彼自身も、結構、この話を、あっちこっちで話してるんだ。
 こういう体験ねえ、いくつもしてるって先程お話しましたけど、もうひとつ、こ/れは彼が好きな話でねえ。彼の大好きな話なんで、これからお話しましょう。
 元々、彼は、出版関係の仕事というか、マスコミの仕事に行きたかったヤツだか/ら、多少、親から自立して、いいところ見せたかったんでしょうねえ。
 ヤツは学生時代、大阪の大学に通ってて、家から通おうと思えば通えないことは/なかった。が――、学生になったらいっちょうまえに暮らしたいんで、アパート暮/らしを始めたんだ。アパートと言っても、今のアパートじゃないですよ。当時はモ/ルタルで、せこいアパートですよ。【306】
 で――彼、引っ越して、家から独立した。


 ※ リイド文庫『稲川淳二のすご~く恐い話』第14話「先輩のハト」
 本書では自立心から敢えて家を出てぼろアパートに入ったように云っているが、こちらでは「家から大学が離れていたので」アパートに入居したことになっている。特にボロいことを強調してもいなかった。
・30「フィルムに映った恐怖」
 冒頭、334頁3~6行め、

 さっきの中山の話だけど、こいつが学生時代に撮ったフィルムの話で、ちょっと/すごいのがあるんだなあ―――。
 彼、大学時代、映画研究会で、当時は8ミリで撮影していた時代でねえ。
 それで、その研究会で、なんか撮りに行こうや、って話になった。


 ※ リイド文庫『稲川淳二のすご~く恐い話』第8話「フィルムに映った恐怖」
 この話の「Nクン」はこのフィルムの撮影に関わっていないように読める。フィルムを見たことがあるのかどうかも、よく分からない。しかし本書では、中山氏本人が問題の8ミリフィルムを撮影したことになっている。
 当時の稲川氏と中山氏が、何が縁で知り合い、実際にはどのような関係だったのか、探るのは私には荷が重いので、今は『稲川淳二のすご~く恐い話』と、これら怪談ライブでの語りとでは、中山氏の位置付けがかなり違っているように感じられることだけをメモするにとどめて置く。
 しかし、合意書の内容は十分履行されなかったようだ。一昨日見たように全4集(最終的に全5集)の計画で、プレゼント企画も始動していたのである。版元としても元手が掛かっていることであり、途中でやめる訳には行かない。――合意書で早々に騒動の種を摘み取って、ワイドショーなども使ってほぼ計画通りに刊行してしまった、と云う流れになるのであろうか。
 こんな騒動があったことを私は知らなかったので、ライブの活字化なら竹書房文庫から出ているはずなのに何故「ユニJオフィース」などと云う出典にも初出にもならぬ事務所名を『稲川怪談』は「出典・初出一覧」に挙げているのだろう、と無邪気に疑問を表明したのだった。尤もリイド文庫の方だって無傷ではないのだが、確かにリイド文庫に比して、こちらは表現面から見てもアウトで、典拠として挙げにくかろうと思われるのである。(以下続稿)
【1月26日追記】・36「心中死体の岩場で」
 稲川氏の怪談観が窺えるところでもあるので、やや長めに前置き(408頁3行め~409頁2行め)を抜いて置こう。

 今からお話するの、学生時代の思い出なんです。
 他でも、ちょっと話したことあるんですがねえ。どっちにしろ、今日は皆さん、/まだ時間がありますんで、楽しんでいって下さいよ。
 
 ちょうど今から10年ぐらい前からですかね、怪談話に対する、私の考え方が変わ/りましてねえ、私にブレーンがいるんです。で、彼と、怪談話、実話ばっかり集め/たんですが、そしたら共通項があるんですよ。
 私たち、その向こうに、いったいなにが見えるのかなあと思って、今日の今まで/真剣にやってきましたよ。
 ですから、話はみんな実話なんですが、聞いた話は、その人が信用できるなら、/【408】それでいいなと思ってるんです。ですから、皆さん、娯楽だと思って楽しんで、聞/いてもらえればと思うんです。


 この「ブレーン」は中山氏ではないかも知れない。しかし、そうとも取れるような語り振りである。それから「実話」と言いつつ「娯楽だと思って」と逃げ道(?)を準備しているところが気になるのである。

*1:ルビ「 と ぎ 」。