瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤堀又次郎伝記考証(2)

 昨日の続き。
赤堀又次郎『御即位及大嘗祭大正三年三月 十 日印刷・大正三年三月十五日發行・大八洲學會
赤堀又次郎『御即位及大嘗祭大 正 三 年 三 月 十 日 印  刷・大 正 三 年 三 月十五日 發  行・大 正 四 年 五 月 二 日 再版印刷・大 正 四 年 五 月 五 日 再版發行・實價〈特製金貳   圓/並製金壹圓五拾錢〉・御即位記念協會
 国立国会図書館デジタルコレクションでは初版と再版が閲覧出来るが、ともにマイクロフィルムに拠っているので「三色版」がどの程度色彩を再現出来ているのかが判らない。
 私は皇室には興味がないので、本書にも興味はない。だから内容ではなく飽くまでも赤堀氏の伝記の検討と云う観点から見ていくことにする。よって初版と再版の異同、例えば「目次」六頁と本文の間に差し挟まれる令旨や官報號外などに出入りがあることなどには触れないで置く。
 奥付、著作者の住所は「東京市牛込區 加 賀 町 二 丁 目 十 四 番 地」で再版は字間が詰まっているが同じ、初版の發行所の所在地は「東京市四谷區寺町貳拾貳番地」で「振替貯金口座東京二九七一番」、これは發行者の塙忠雄の住所「東京市四谷區寺町二十二番地」に同じ。この住所は現在の東京都新宿区若葉2丁目8番3号、塙保己一墓所の愛染院で塙忠雄(1863.十二.二十八~1923.12.4)は塙保己一の曾孫、温故学会の設立者の1人。發行者は再版も同じだが發行所が「東京市入谷區入谷町三十五番地」の御即位記念協會、前回見た「御卽位禮畫報」の版元で、現在の東京都台東区入谷1丁目7番辺りである。
 本文は二七八頁「刊 誤」まで再版でも変わりないようだ。赤堀氏は前回冒頭部を引いた「御卽位禮畫報」第七卷掲載「「御即位及大甞祭」と「太陽」に載せたる「即位禮」と「大甞祭」」の一〇五頁14~16行めに「拙著の活字校正には、多大の力を致したれどもなは誤植あるを、この比較に依りて發見せり。誤植ありしものを、天/覽に供し、世に傳へたるは、恐懼にたへず。和田氏の文と比するに及びて發見したることにつきては、深く和田氏に/感謝せざるを得ざるなり。*1」と述べていたが、和田千吉「即位禮と大甞祭」によって訂正した第三版は刊行されただろうか。
 「目次」では「刊誤」の次が「附録/代始和抄」と云うことになっているが、その前に五頁、自跋に当たる文章がある。五頁9行め、2字下げで「大正三年二月五日」付、下詰めで「赤 堀 又 次 郎 謹 識 」とある。ここには再版での改訂や追加を説明した文言などは追加されていないようだ。冒頭一頁11行めまでの段落を抜いて置こう。

去る明治廿年にやありけん。友人高瀨雅量君の爲に、大甞會の/次第を記して與へしことあり。一昨年、雜誌大八洲に御即位及大/甞祭のことを揭載すべき由の依賴を受け、舊稿を採りて補ひ正さ/んとせしに、別に他より寄稿ある趣なりしかば、一時之を中止せり。/然るに、其寄稿のことも叶はざりしにや。更に依賴ありて、再筆を/執りたり。其後雜誌に載することは止めて、單行すべき由通知あ/りたれば、稿本を改むること數回。すこぶる詳略取捨に迷ひしが、/昨年の末に一まづ筆を擱きたり。余は、一昨年五月一日電車の爲/に負傷してより未だ健康を回復せず。故に專ら事に從ふ能はず。/稿本意に滿たざること多けれども、今に至りて中止する能はず。敢/へて之を出版することゝせり。


 大八洲學會の雑誌は、前身の「大八洲學會雜誌」「大八洲雜誌」は国立国会図書館に所蔵されているが「大八洲」は所蔵がない。大学図書館でも揃いで所蔵しているところが少ないので、この辺りの事情を「大八洲」で確かめるのはちと困難である。
 さて、国立国会図書館デジタルコレクションの再版には附録「代始和抄」二七頁の次に無題で柱に「跋」とある漢字片仮名交りの文章(二頁)があって、その最後(二頁6~12行め)に、

大八洲學會ハカクノ如ク大臣博士ノ讃辭ヲ辱ウスルノ光榮ヲ有シ/テ本書ヲ刊行シ萬世一系ノ天皇ヲ戴クトコロノ國民諸君ニ本書ヲ/提供スルヲ名譽トスルモノナリ
實ニ本書ハ我等國民ガ子々孫々ニ語リツギ言ヒツグベキ大典ノ好/記念物ナラズヤ
コヽニ本書刊行ノ經過ヲ述べテ卷末ニ添フ
  大正三年二月   大八洲學會主幹 塙  忠  雄

とあるのだが、国立国会図書館デジタルコレクションの初版にはこれがない。――余所の蔵書を見ないことには何とも云えないが、やはり大八洲学会発行の初版にこの「跋」がないのはおかしいだろう。国立国会図書館の蔵書は、利用者が多い分だけ痛みが激しく、心ない利用者が一部の頁を切除したりと云ったこともあるので*2、ここも何らかの理由によって脱落したものと思われるのである。故に細かい異同の確認は省略した次第。(以下続稿)

*1:ルビ「せつちよ・くわつじかうせい・た だい・ちから・いた・ごしよく・ひ かく・よ ・はつけん・ごしよく・てん/らん・きよう・よ ・つた・きようく・わ だ し ・ぶん・ひ ・およ・はつけん・ふか・わ だ し/かんしや・え 」。

*2:頁付が連続していなければ(切除が明らかな場合)気付きやすいが、本文をよく読まないと分からない折込図の場合、なくなっていても気付きにくい。出身大学の図書館が利用出来るようになったら、その実例について報告したい。