瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

白馬岳の雪女(105)

 白馬岳の雪女は、柳田國男「山と傳説」を序文のように載せている青木純二『山の傳説 日本アルプス』に載ったこともあってか、民俗学の文献にも早い時期から取り上げられている。
中山太郎 編『日本民俗學辭典』
①初版(昭和書房)昭和八年十一月一日 印   刷・昭和八年十一月七日 第一刷發行・定價 五圓五拾錢・特價 四圓八拾錢・初版 一千部限り・八六八+五三頁
 「昭和八年九月」付の「序」3頁と「凡例」1頁には頁付がない。50音順なので目次はない。
②再版(昭和書房)昭和 八 年十一月一日 印   刷・昭和 八 年十一月七日 第一刷發行・昭和十一年 五 月六日 第二刷發行・普及版 三圓五拾錢・八六八+五三頁
 扉の後、「昭和八年九月」付の「序」の前に「父母の靈に/本書を捧ぐ」の献辞がある。裏は白紙。続いて「昭和十年三月」付の「再版之序」があってこれも裏は白紙。1段落め(2~3行め)を抜いて置こう。

 賣れるだらうと思つたものが賣れて再版する悅びと、賣れまいと思つたものが賣れて再版になる悅びとは、おの/づから其の間に差別がある。私の場合は言ふまでもなく後の方の悅びである。

とあるから初版(第一刷)1000部を売り切って再版になったのである。奥付には「普及版」とあるが、扉や巻頭(一頁)の内題には特に断っていない。表紙や函にあるのかも知れないが国立国会図書館デジタルコレクションでは確認出来ない。
③改訂版(梧桐書院昭和 八 年十一月 一 日印   刷・昭和 八 年十一月 七 日第一刷發行・昭和十六年 五 月三十日第二刷發行・昭和十六年 六 月三十日第三刷發行・改訂版(停)參圓五拾錢・八六八+五三頁
 版元が変わっているので扉の「昭 和 書 房 刊」が「梧 桐 書 院 刊」に改められている。献辞と「再版之序」はない。「序」は3頁め11~13行めに次の1段落が挿入されている。

 追記 昭和八年以來長らく絶版であつた本書が梧桐書院から再刊さるゝに際しヱの部に多少の改訂を試みた外/は、總て其の儘として鉛鑿に附した。勿論、此の他にも改訂したい點は尠くないが、多忙がこれを許さぬのは如何/にも不本意のことである。

とあって「昭和十六年二月」付、よって最後の下寄せ「中 山   太 郎 識」の右に初版・再版では「早咲の菊の便りを聽きつゝ、本郷弓街の書屋に於て」と添えてあったのが、後半「本郷弓街の書屋に於て」のみになっている。この梧桐書院版は初め第三刷、そしてこれは第四刷のはずなのだが、編者中山氏本人が昭和11年の再版/第二刷の存在を忘れていたので、第二刷には昭和書房版と梧桐書院版が存在することになってしまった。
 八四七頁下段12行め~八四八頁上段3行め、

ユキヲンナ 〔雪女〕 信州白馬岳の晩秋の頃、獵師の親/ 子茂作と箕吉は山で暴風雪に襲はれ、山小屋に一夜を/ 明かしたが、其夜に色白の一人の女が何處からか入り/ 來り茂作に息を吹きかけ、次に箕吉に向つたがやがて/ 『あなたゞけは、どうもせぬ代りに絕對に他言をして/ はいけない、誓ひを破れば殺してしまふ』と云ひ捨て/ ゝ姿を消した。父は死んでゐたので箕吉一人歸宅した/ 翌年の雪の夜、行き暮れた娘を救ひ妻とし五人の子を/ 儲けたが、或夜十年前の山小屋の出來事を話した。妻/【八四七下】 の小雪は『それは私だつたが、誓ひを破つて他言する/ あなたを殺さぬ代り子供を賴む』と云つて姿を隱した/ (山の傳說)。種々變つた傳說がある。


 なお、本書には復刻版が2種ある。復刻版は補遺と抱き合わせてあるので補遺についても見て置こう。
中山太郎 編『日本民俗學辭典補遺』昭和十年九月十五日 印 刷・昭和十年九月二十日 發 行・定 價 貳圓八拾錢・昭和書房・三九八+三一頁
 「序」3頁と「凡例」1頁ともに頁付なしで「昭和十年七月」付。扉と巻頭(一頁1行め)では標題「日本民俗學辭典」に角書「遺補」、「類 從 索 引」の末尾(三一頁中段)には「補遺日本民俗學辭典 」とある。なお国立国会図書館デジタルコレクションには「日本民俗学辞典 補遺」と「日本民俗学辞典 補遺 再版」と2冊上がっているが同版である。
・『日本民俗学辞典覆刻版』昭和五十五年五月二十日印 刷・昭和五十五年五月三十日覆刻版第一刷発行・名著普及会・一二六八+七二頁
 奥付に拠ると『日本民俗學辭典』の「昭和十六年六月三十日(正編改訂版)梧桐書院/昭和十六年八月 十日(補遺編)  梧桐書院」を抱き合わせて覆刻したもので、正編・補遺編の項目を50音順に並べている。よって「ユキヲンナ 〔雪女〕 」項は一二〇八頁下段7~18行めにある。
・『日本民俗学辞典(全)』昭和62年5月30日合本復刻・定価21,000円・パルトス社
 正編・補遺を別々にして抱き合わせている。〔正 編〕昭和8年11月7日発行(昭和書房)/昭和16年5月30日  (梧桐書院)/〔補遺篇〕昭和10年9月20日発行(昭和書房)/昭和16年8月10日  (梧桐書院)」とあって、正編の奥付は初版ではなく昭和11年の再版と、昭和16年6月の改訂版第三刷とを示す。再版の献辞と「再版之序」はなく「序」は昭和十六年二月付。補遺は「序」は「昭和十六年二月」付で「凡例」は「昭和十年七月」付、奥付は昭和10年版と昭和16年版を収録する。国立国会図書館デジタルコレクションにない梧桐書院版の奥付に拠ると、中山太郎 編『日本民俗學辭典補遺』(昭和 十 年九月十五日 印 刷・昭和十年九月二十日 發 行・昭和十六年八月 十 日 再 版・(停) 定價 貳圓五拾錢・梧桐書院)と云うことになる。
 なお出典として(山の傳説)を挙げている箇所は正篇に8箇所、補遺に10箇所ある。これらは追々確認して行くこととしよう。(以下続稿)