瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

港屋主人「劇塲怪談噺」(1)

 芝居関係者には怪談が多いらしい。明治42年(1909)には「都新聞」に「役者の怪談」という連載があった。考証の材料になるので一通り目を通していたのだが、その後、次の本に影印で収録された。

明治期怪異妖怪記事資料集成

明治期怪異妖怪記事資料集成

 しかしながらこの本は、注もなしにそのまま収録しているだけなので、私がぼちぼち作っていた登場人物索引や、他の文献に見える同じ話のメモなど、全く役に立たなくなった訳でもないので、そのうちに記事にまとめて置きたいと思っている。
 さて、怪談実話のアンソロジーである、ちくま文庫東雅夫編『文豪怪談傑作選・特別篇』の既刊3冊にも、役者の語った話は少なくない。演劇関係雑誌を眺めても、怪談の記事は少なくない。実はそういうのもぼちぼち集めていた。
 古いものは著作権も切れている訳だから、いろいろと細工をして無理に記事に仕立てなくとも、過去にメモして置いたその原文をそのまま資料として提示してみるのも何かの役に立つのではないか、と云う気がしてきた。
 そこで、手始めに港屋主人「劇塲怪談噺」を紹介することにした。大正8年(1919)6月15日発行の「歌舞伎新報」第1693号の廿一〜廿三頁(5段組のうち下2段)に掲載されている。この港屋主人、斯界に通じた人物のようだが、素性は調べていない。もしかすると著作権が切れていない可能性もあるのだが。全文を一度に掲出する余裕はないので、少しずつ上げていくこととする。
 冒頭に大きく「劇塲怪談噺*1/港屋主人」と2段抜きで入り、まず執筆の動機が語られる。

 一犬嘘に吠ゆれば萬犬實を傳/ふ――とは古くからある 諺 で/ある。根も葉もない憶説が流れ/流れてとてつもない噂を作り出/すことは 屢 あることである。/殊に頭の古い連中の集まつてゐ/る芝居道にはつまらない事件に/も樣々な憶測を廻らせて妙な噂/を立てる事が間々ある。
 旅から旅を漂らひの役者達が/棟の低い大部屋に集まつて、徒/然のまゝに語り出すうそつぱち/が、はからずも大變な噂になる/事なども珍らしくはないさうだ/それのみか花のお江戸の大芝居/にもさうした噂の持主になつて/ゐるのが澤山ある。幽靈が果し/てあるものか無いものかは自分/も分らない。兎に角自分の耳に/入つただけを書きたてる。


 当時の新聞雑誌は総ルビで、漢数字以外には振仮名がある。本文中に挿入すると煩いので、以下、段落ごとにまとめて示して置く。踊り字の「く」「ぐ」 が2字分に引き伸ばされているものは再現できないので「 く 」「 ぐ 」として処理して置いた。変体仮名字母で示して置いた。

 けんきよ・ひ・ばんけんじつ・つた/ふる・ことわざ/ね・は・おくせつ・なが/なが・うはさ・つく・だ/しば ぐ /こと・あたま・ふる・れんちう・あつ/しばゐだう・じけん/さま ぐ ・おくそく・めぐ・めう・うはさ/た・こと・まゝ
 たび・たび・さす・やくしやたち/むね・ひく・おほべや・あつ・と/ぜん・かた・だ/たいへん・うはさ/こと・めづ・はな・江ど・おほしばゐ/うはさ・もちぬし/たくさん・ゆうれい・はた/な・じぶん/わか・と・かくじぶん・みゝ/はひ・か

*1:ルビ「げきじようかいだんばなし」。