瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

柳田國男『遠野物語』の文庫本(18)

 ところで、角川文庫1295『遠野物語』の改版が、昭和44年(1969)頃に行われていることは、大藤時彦「解説」の最後の段落から、見当は付けられた。

 『遠野物語』は日本民俗学開眼の書であるが、その初版刊行以来、今日まで文学の書としても味読されてきた。昭和四十三年九月には明治後期の文学書として、日本近代文学館の名著復刻全集の一冊にも加えられた。柳田先生には民俗学者よりも前に文学者としての生活があったのだから、『遠野物語』を文学書として読むことは結構である。詩人であった先生の溢美の文章は醇乎たる文芸作品となっているからである。


 しかしながら、角川文庫1295『遠野物語』の改版四十六版の奥付では改版時期が分からなかった。奥付には昭和30年(1955)の初版と平成16年(2004)の改版四十六版の間に、「昭和四十三年七月三十日 十版発行」をわざわざ挙げている。しかしながら、この「十版」の位置付けが分からない。もちろん、改版時の増補と見られる大藤氏の「解説」に「昭和四十三年九月」とあるから、この「十版」は改版前なので、恐らく初版の最後の増刷なのであろうが。
 この改版が昭和44年8月であったことは、新版初版の奥付によって初めて確認される*1。改版四十六版が「昭和四十四年八月十八日 改版初版発行」と示さない理由は、どうもよく分からない。
 この、角川文庫の奇妙な表示については、「森鴎外舞姫』の文庫本」の3月8日付(2)及び3月17日付(4)でも取り上げたところである。ただ、『遠野物語』新版の奥付は、諸版ともに昭和30年初版と当該版の発行日の間に「平成十六年五月二十五日 新版初版発行」と示していて、ようやくまとも(?)な表示となっている。

*1:もちろん、改版初版でも分かっただろうが、それ以降の諸版の奥付にはこのデータは載らなかった訳で、2004年に約35年ぶりに判明(?)したことになる。