瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

七人坊主(29)

 ついでに同じ表から、中之郷村(169〜170頁)の分の「海岸」欄、小岩戸ヶ鼻から藍ヶ江港までの地名も抜いてみよう。

……/小ヤワドヶハナ/ツシロ/ナヅマト/祭リ戸/アシクノ下/オレジノハナ/○平根ケ浦/上タン石〔石印〕/コミノ川浦/高石浦/□初子ノ潟 初手ノ潟/亀トヾ越  大崎/……


 ○が付されているのは寛政八年(1796)の図にはなく、弘化三年(1846)に新たに加えられた地名。□が付されているのは寛政八年(1796)図の誤りで、「初ノ潟」となっていたのを弘化三年(1846)「初ノ潟」に改正したのである。
 この表の地名は活字本第七巻「地名索引」では拾われていない。索引は便利だけれども索引だけで安心してはいけない。『八丈実記』巻四(活字本第一巻第四編155〜159頁)に図版として掲載される5ヶ村の絵図にも地名が記入されているが、やはり「地名索引」には拾われていない。かつ、彩色してある原本の絵図を、活字本では単色の図版にしているため、文字が読みづらい。いずれ原本の閲覧も考えないといけないが、先月から東京都公文書館が休館中だし、そこらへんの図書館で得られる「瑣事」を揃えて置くのがこのブログの主旨でもあるので、差し当たり活字本の図版で読み取れる地名を拾って置く。
 157頁の「八丈嶋之内末吉村地圖」では「ミコノ尾」の集落の近くに「トウノウ」の地名を見出せるが、彩色が黒くなっているため、「ハテイノ川」の有無は判然としない。
 158頁の「中之郷村(繪圖)」で、同じ辺りの海岸には南東から北西へ「小ヤワドヶハナ」「ツレロ」「ナヅマ」「祭……」「アシクノ下」「オレジノハナ」「高石浦/コミ川ノ浦」「初手ノ形」「大崎」「亀トヾ」の地名が記載される。これは「五村惣評/中之郷/海岸」の順序にほぼ合致している。そこを引いて置こう。『八丈実記』巻六(活字本第一巻第三編)「五村惣評」(80〜147頁)の128〜132頁「中之郷」の129〜130頁「海岸」のうち、同じ辺り(130頁上段)。

……、小岩戸、釣代、ナヅマド、祭リ所*1、アシクノ下、オレジノハナ、平根浦、コシノ浦、高石浦、初手形、亀トヾ越、大崎、大石浦コノヘンホロシ池迄、中之郷湊藍ヶ江也。


 この「コシノ」は「コミノ」の誤記もしくは誤読と思われる。――この写本の活字化は大変面倒な作業だったと思うのだが、やはり同じ辺りの地名を対照しながら考えないと写本というものは読み間違いが起こりがちで、かつ一度間違うとマイナーな固有名詞だから容易に訂正されない。厳密な校訂が求められる所以である。それにしても、八丈島にはこれほどの地名資料がありながら、その同定・現在の地図との対照がなされていない(らしい)のは、少々寂しい。(以下続稿)

*1:ルビ「ド」。