瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

森鴎外『山椒大夫』の文庫本(1)

 来週は病院に行く暇がなさそうなので、もう症状が出ているのかそれともこの寒さに少し風邪気味なのか分からないが、午前、掛付けの医院に行き1箇月分の処方箋をもらう。初めの2年は血液検査をされたが昨年からはしなくなった。調剤薬局でアレグラと目薬を購う。それから駅で、昨日下ろした金で6箇月の通勤定期を買う。昼前に出勤。
 芭蕉は、一番弟子である其角編の追善俳諧集『枯尾華』の巻頭、其角「芭蕉翁終焉記」の冒頭にいきなり「はなやかなる春はかしら重くまなこ濁りて心うし」と描写され、以下夏も秋も冬もさんざんなのだが、私も春は似たようなもので、でも俳諧はやらない。いや芭蕉には「この一筋」があったけれども、私はただ「無藝無能」なだけである。――そもそも、名を成した人と我身とを比較するのが無意味なのだが。しかし、生存がまず苦痛である、という認識から文学が生まれるのなら、私のような脳天気な人間は所詮縁なき衆生である。

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・角川文庫695『山椒大夫高瀬舟阿部一族
 本書は以前2011年3月6日付「森鴎外『舞姫』の文庫本(1)」に、角川文庫の「カバー 奥村靫正」の例として書影を貼って置いたが、その前の「カバー 国重陽」のものを見たので、記述して見たい。
 文庫によっていろいろな組み合わせで刊行されているが、ここでは仮に「山椒大夫」で代表させて置いた。たぶん、鴎外の作品で小学生の頃、子供向けの文学全集で初めて読んだのが「山椒大夫」で、特に気に入ったとかいうこともないのだが。
 さて、比較に用いたのは、昭和42年(1967)初版そのままの増刷(昭和四十二年二月二十八日初版発行・昭和五十九年七月二十日三十三版発行・定価220円・246頁)と、昭和末の改版(昭和四十二年二月二十八日初版発行・平成六年四月十日五十三版発行・定価340円・256頁)である*1
 まず、三十三版のカバーを見るに、背表紙、上部に「山椒大夫高瀬舟阿部一族 森 鴎外」とあり、下部に「角川文庫 緑 三 4  220」とある。カバー表紙は波濤を描いた版画で黒が基調だが波頭には銀も混ぜてあるようだ。もちろんこれは「山椒大夫」からの印象であろう。文字は横組みで上部に大きく「山椒大夫高瀬舟」その下やや右寄りに「阿部一族」その下左よりに小さく「森 鴎外」最下部左寄りに「角川文庫」。裏表紙は最下部に「ISBN4-04-100304-0 C0193 \220E 定価220円」とあるのみ。
 五十三版の表紙は書影の通りだが、背表紙は一番上に「も|1-2」という分類番号が入り、標題に「さんしょうだゆうたかせぶね」のルビが附され、最下部は「角川文庫P350」Pは黒丸に白抜き、350は税込価格。裏表紙は左上にバーコードが2つ、右上に10桁のISBNコード、その下に「C0193 P350E 定価350円」とあり、定価の下に(本体340円)とある。中央部に縦組み・ゴシック体で11行の紹介文がある。
 この紹介文は、三十三刷では表紙折返しの上部に横組みで、まずゴシック体で標題を示し、その下に明朝体で9行あるものとほぼ同じで、五十三刷に「じゆんし」にルビが追加されていること、末尾が三十三刷「……を収む。」だったのが五十三刷「……を収める。」に改めてあるくらいである。
 三十三刷の表紙折返しの下部は「月刊小説王」の広告。五十三刷は「●森鴎外(もり おうがい)」の紹介文(縦組み)。
 裏表紙折返しは全く同じで上部に「角川文庫森 鴎外作品集」として「舞姫うたかたの記/雁・ヰタ セクスアリス/山椒大夫高瀬舟阿部一族」が挙がり、右下に「KB」マーク、左下に小さく「カバー 暁美術印刷」とある。
 本文、三十三刷は活版印刷らしいムラがあるが、五十三刷は写植ですっきりしている。 1頁(頁付なし)、扉のレイアウトは同じだが、匡郭の四隅が三十三版は直角にならず、鍋蓋のようになったり隙間が出来たりしている。3頁「目次」もレイアウトは同じだが、五十三版には「さんしょうだゆう/おきつやごえもん/あねいちぞく/さはしじんごろう/ぎよげんき」とルビがあり「じいさんばあさん/最後の一句」にはルビはないが「たかせぶね/えんぎ/かんざんじっとく」に附され最後の「寒山拾得縁起」にもルビがない。小説9篇とその「縁起」2篇を収め、縁起は1字下げている。1行空けて「註 釈」と「解 説」。5頁(頁付なし)は「山椒大夫」の扉で6頁から本文。2篇の「縁起」には扉はない。各作品の扉にも五十三刷には目次と同じようにルビが附され、本文には「寒山拾得縁起」にも「えんぎ」とルビがある。
 1頁18行、三十三刷は1行43字(11.7×8.0cm)、五十三刷は1行42字(12.1×8.3cm)となっており、少し頁数が増えている。
 山椒大夫(5〜40頁→5〜41頁)興津弥五右衛門の遺書(41〜53頁→43〜55頁)阿部一族(55〜96頁→57〜99頁)佐橋甚五郎(97〜107頁→101〜111頁)魚玄機(109〜126頁→113〜130頁)じいさんばあさん(127〜136頁→131〜140頁)最後の一句(137〜152 141〜157頁)高瀬舟(153〜166頁→159〜172頁)高瀬舟縁起(167〜169頁→173〜175頁)寒山拾得(171〜181頁→177〜188頁)寒山拾得縁起(182〜183頁→189〜190頁)。
 「註釈」は組み方も五十三版が1行に1字多いものの1頁21行は同じ。頁数を示してその頁にある注の附された(本文中には*を附す)語を列挙するが、その語を太字するなどの工夫がない。五十三版では1語ごとに*を附して見分けやすくしている。三十三版では2行になっていた「山椒大夫」の「*国分寺」と「高瀬舟」の「*白河楽翁侯」が五十三版では1行になって、その2行分が減っている。
 三十三版209頁五十三版217頁に「解説」の扉(頁付なし)がありその裏(頁付あり)が解説の目次。三十三版211〜224頁、高橋義孝森鴎外―人と作品」五十三版219〜233頁では「―」が増えて「森鴎外――人と作品」。前半が「その生涯と作品」三十三版217頁7行めまで、五十三版225頁10行めまで。後半は「鴎外の歴史小説について」。
 三十三版225〜230頁・五十三版234〜239頁「作品解説」は「解説」扉の目次に「唐木順三」とある。まず前置きとして単行本『意地』について述べ、「興津弥五右衛門の遺書」の「初稿と改稿との間」にある「非常な相違」に触れている。そして「興津弥五右衛門の遺書」「阿部一族」「佐橋甚五郎」「最後の一句」について述べる。それぞれ1頁前後の分量だが「佐橋甚五郎」は見出し込みで3行で済ませている。
 三十三版231〜234頁「主要参考文献」235〜245頁「年譜」は、2011年3月17日付「森鴎外『舞姫』の文庫本(4)」に紹介した、昭和42年改版の『舞姫うたかたの記』144〜147頁「主要参考文献」148〜158頁「年譜」と同じもののようである。
 五十三版須田喜代次編「主要参考文献」(240〜245頁)稲垣達郎「年譜」(246〜256頁)は2011年3月8日付「森鴎外『舞姫』の文庫本(2)」及び2011年3月17日付「森鴎外『舞姫』の文庫本(4)」に紹介した、昭和末年(?)改版の『舞姫うたかたの記』142〜147・148〜158頁と同じもののようである。今手許にないので確認は出来ていないが、ほぼ間違いないと思う。
 三十三版246頁に「森鴎外」の略歴が載る。
 次に奥付があり、その裏が角川源義「角川文庫発刊に際して」、三十三版には「角川文庫目録 現代日本文学(緑帯)1982年7月」は3段組の書目(2)〜(7)頁と「角川文庫 最新刊」1頁10点の(49)(50)頁の計8頁の目録が載る。五十三版は「角川文庫ベストセラー」が9頁、「角川文庫最新刊」3頁の計12頁で、1頁に6点ずつ。
11月10日追記】文中に言及した過去の記事の日付を、何故かいづれも「2012年3月」としていたのを「2011年3月」に修正した。

*1:【6月29日追記】五十七版(昭和四十二年二月二十八日初版発行・平成十一年五月十日五十七版発行・定価340円・256頁)を見た。恐らく後者と同版。