瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

松本清張『内海の輪』(4)

 昨日の続き。
松本清張全集9『黒の様式』

松本清張全集 (9) 黒の様式

松本清張全集 (9) 黒の様式

・1971年12月20日第1刷・1985年8月30日第6刷・定価1800円・510頁
 1頁(頁付なし)目次には縦組みで「||黒の様式  3||    解説 丸谷才一 502|」とある。2頁(頁付なし)には中央右寄せ横組みで「装 幀 伊 藤 憲 治」とある。3頁(頁付なし)中扉は中央左に縦組みで「|黒の様式|」とあって、その右下に横組みで細目が示される。
 「歯止め」5〜52頁、「犯罪広告」53〜102頁、「微笑の儀式」103〜165頁、「二つの声」166〜274頁、「弱気の虫」275〜367頁、「内海の輪」368〜464頁、「死んだ馬」465〜501頁。最後(502〜510頁)に丸谷才一「解説」。
 丸谷氏の「解説」は松本清張論で、収録作品の解説ではない。『黒の様式』のうちでは、509頁下段12〜17行め、

‥‥たとえば/『内海の環』の主人公、宗三は大学の公庫学科の助教授で/あるし、彼の行動と生活はその職業に密着している。女主/人公の美奈子は松山の洋品店主の妻で、彼女の行動と生活/もその職業と切りはなせない。二人の経済的な状態も、そ/の職業や地位から考えて、特に奇異なものではない。‥‥

と、「内海の輪」を例に使って丸谷氏の見る松本氏の作品の特徴を説明しているのみで、連作『黒の様式』の他の作品には言及なく、「内海の輪」も作品の内容を論じている訳ではない。第一、作品名が違っている。
 それはともかく、初出については「内海の輪」の末尾、464頁下段16行めに「――以上、週刊朝日(42・1・6〜43・10・25)」とあり、「死んだ馬」の末尾、501頁下段12行め*1に「――小説宝石(44・3)」とある。 
 連載終了後、全てカッパ・ノベルスに収録された。カッパ・ノベルス版は未見だが、光文社文庫の285頁(頁付なし)に白黒で書影と、「カッパ・ノベルス版の裏カバーより」として「一千万部を突破した清張作品  荒 正人(評論家)*2」が引用されている。

ゼロの焦点 カッパ・ノベルス創刊50周年特別版

ゼロの焦点 カッパ・ノベルス創刊50周年特別版

 松本清張ゼロの焦点 カッパ・ノベルス創刊50周年特別版』(2009年10月25日初版1刷発行・定価476円・光文社337頁)の巻末、326〜337頁「「カッパ・ノベルス版」松本清張シリーズ 刊行作品リスト」には67点が列挙されているが、1頁に6点で332頁の4番めと6番め、そして333頁の3番めが連作「黒の様式」を纏めたものである。すなわち、

37 黒の様式                        1967・8・1
   *表題作のほか「犯罪広告」と「微笑の儀式」を収録。
39 弱気の蟲                        1968・3・15
   *破滅する官吏を描く表題作と「二つの声」を収録。
42 内海の輪                        1969・5・15
   *秘めた愛を描く表題作と「死んだ馬」を収録。

とある。これで見ると「歯止め」がカッパノベルス版では「黒の様式」と題されているように読める。しかし「黒の様式」とは連作の題らしくはあるけれども、個々の作品の題らしくはないから、やはりこのリストが間違っているのだろうけれども、一応現物を確認しないことには断定する訳には行かない。とにかくこのカッパ・ノベルス版で「黒の様式」の連作に含まれていなかった「死んだ馬」が「内海の輪」と抱き合わされ、そのまま『全集』でも「黒の様式」に組み込まれることになったのである。
 この辺りのことは、光文社文庫286〜292頁、山前譲「解説」に要領よく纏められている。291頁3〜13行め、

 この「内海の輪」は全六話からなる「黒の様式」の最終話で、一九六八年二月六日から/十月二十五日まで、「霧笛の町」と題して「週刊朝日」に連載された。一九六七年一月に/スタートした「黒の様式」は、「黒い画集」(「週刊朝日」 一九五八・十〜一九六〇・六)/と「別冊黒い画集」(「週刊文春」 一九六二・十二〜一九六四・四)につづく黒をイメー/ジしたシリーズである。
『内海の輪』と題するカッパ・ノベルスが刊行されたのは、一九六九年五月である。その/際、「黒の様式」とは別に書かれた「死んだ馬」(「小説宝石」 一九六九・三)も収録され/た。同題の角川文庫(一九七四・五)もこの二作を収録している。文藝春秋版『松本清張/全集9』(一九七一・十二)には「黒の様式」の全作がはじめて一冊にまとめられたが、/「死んだ馬」も第七話として収録されていた。「内海の輪」は、中央公論社版『松本清張セ/レクション27』(一九九五・九)と双葉文庫『証言』(二〇〇八・五)にも収録されている。


 角川文庫には小松伸六(1914.9.28〜2006.3.20)の「解説」がある。この小松氏の「解説」は衝撃的な「私事」が語られていて、「死んだ馬」の初出に関する説明がないなどの欠点を補って余りあるものがある。(以下続稿)

*1:9月16日追記】読点からここまでを補足。

*2:ルビ「あら まさひと」。